見出し画像

蝋燭の火は、いつの日か消えた。

1年と少し。数年ぶりに好きな人ができた。
新卒で入社した職場の同期、同じ事業所にたった1人の同期だった。

距離感と人柄がとても心地良い人。
最初は「なんだか気になる、けど恋愛にまでは発展しないだろうな」と思っていた。
けれども、日々の療育や就業後の立ち話、ふたりでの飲みなんかを通して、そうも言ってられないところまで来てしまった。
我ながら、早い段階で気持ちを膨らませてしまったと思った。
確か、「入職して1か月経つし、パーッと飲みに行こう!」と決めた頃にはもう気になっていたと思う。ふたりで行った焼き肉屋では、妙に緊張していた覚えがある。

GW中、遠方から帰省した親友に「好きな人ができた」と報告した。親友は自分のことのように喜んで、エピソードをあれこれと聞いてきた。今でも覚えている。河川敷のベンチに座って、暖かな午後の日差しを受けながら声を弾ませて話したのだ。

時は流れ、季節は夏。
私は、私なりにアプローチをしていた。だがしかし、あまりに分かりにくかったのだろう。あくまで私基準で「やりすぎかな、バレるかな」と思うような言葉を発しても、なんだか彼には届いていないようだった。
わざとなのか…?それとも超がつくほど鈍いのか…?
もどかしいほどすり抜けるので、それはもう凄く悩んだ。
何をしても、何を言っても、少しの好意も伝わらない。
暖簾に腕押しとはまさにこのことだと思った。

これ以上ないくらい優しいのに、LINEは長くは続かない。
何だか一線引かれているような気さえしていた。
思い過ごしならいいのだけれど、もし本当にそうなのだとしたらかなり落ち込む。
この時期の悩みはそれだった。

夏の夜、じっとりと汗ばみながら自転車を漕いだ。そうして、川沿いの階段に座ってもう一人の親友にそのことを相談したことがあった。
何をやっても平行線なのだと、優しさという名の線を引かれている気がするのだと伝えた。親友は私よりも恋愛経験が豊富なので、ああしてみたら?こうしてみたら?と真剣にアドバイスをくれた。
それらを踏まえて、もう一度頑張ってみるという結論に至ったところで、その日はお開きになった。

秋と冬。
変わらずアプローチは続けていたけれど、ずっと状況は変わらないままだった。
2月。異動があり、私も彼も同じ事業所で過ごせることが決まったが、新たな風が吹いた。
3つ歳上の先輩が、別の事業所からやってきた。彼女は、垢抜けていて、カラリとした性格で話しやすくて、ハスキーボイスが特徴的だった。
さらに、同じ事業所とは言えど彼は1階、私は2階と過ごす場所が別々になってしまった。

女の勘とは凄いもので、彼と先輩の距離が急速に近くなっていくのを察した。
先輩の方はどうとも思っていないようだが、彼の方が彼女によく懐いているようだった。仲良さげに話す様子や、終業後にわざわざ「ほら帰りますよー」なんて言って先輩を待つ様子、聞けばふたりで飲みに行くこともあったらしい。

当然そんなのを見ていると焦るもので。
もだもだと悩んでばかりいられなくなって、とうとう告白したのが3月末のことであった。
その後1週間経ち、「良いお友達でいましょう」と返事をもらった。その時の私としては、気持ちを伝えるのが目的だったのでそれでかなり満足だった。

しかしながら、気持ちに折り合いをつけたくても距離を置くことはかなわず相変わらず職場で近くにいること、それから先輩との仲の良さにもやもやしてしまうことなど、簡単には吹っ切れさせてはもらえない状況でかなりイライラしながら過ごした。
そうこうしている間に、こちらの事情で私は退職することとなった。

やっと心身ともに解放された今、平穏な日々を過ごせるようになった。最近、彼はやはり先輩を彼女にしたのだと聞いた。その時はさすがに「ほれ見ろ!やっぱりな!」と言いたくなった。
そんなことがあり、私は当時を思い出しながらこんな記事を書いている。
もうこんな恋はできないだろうな、と思う。あの時より少しだけ大人になってしまったから。
いい思い出ばかりではなかったが、こうして昇華することで綺麗な思い出として残しておきたい。

またいつか、ちゃんと恋ができますように。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集