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逃避行の続き
閉園を告げるアナウンスが、パーク内に響く。人々は皆、穏やかな表情をして帰路に着く。行く先は皆同じだ。
そんな中、私と親友はまだメディテレーニアンハーバーの湖のほとりに居た。鉄柵に手をかけ、ぶらんぶらんと無造作に身を揺らしている。
「あーあ、まだ帰りたくないねー」
日々の喧騒から離れ、やけに澄んだ声が口から出た。その呟きは、冬の夜空に白い息となって消えていく。
湖の向こうに見えるはポンテ・ベッキオ。煌々と光る温かみのある光が、湖に反射している。私はそれを眺めて、あまりの眩さにぱちぱちと瞬きをした。
此処へ訪れた理由は幾つもあるけれど、一番は逃避行の為だった。狭苦しい広島を離れ、身一つで東京を訪れた。そんな私を迎え入れてくれたこの場所と、手を掴んでくれた親友。
今日この場所で、沢山笑った。スリルあるアトラクションに思わずあげてしまった笑い声、夢の国特有の長蛇の列、眩暈のするような待ち時間なんてものともしない程親友と喋ったあの時間、寒さに震えながら駆け込んだザンビーニ・ブラザーズ・リストランテの温かな食事と他愛の無い会話。全部特別で、鮮明に脳裏に焼き付いたその目映い記憶を忘れることはきっと無いだろう。
そんな一日を終え、門限をとっくに超えた私たちは、いろんなしがらみから逃れちょっとだけ自由になった身で、放課後を過ごすのだ。