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あの日、青春に飛び込んだ。
ネットという宇宙空間にぷかぷか浮かんでいる。
一人きりだったこの世界。
“ほとり”としてネット世界に身を投じたのは、5月の頃だったか。
どこか空虚で味気ない暮らしに飽きてしまった私は、配信をはじめた。
まるで交差点のように、名も知らぬ顔も知らぬ人たちが立ち寄っては挨拶を交わしていった。
一配信者として活動する一方で、私自身も枠巡りと称していろいろな人の配信に顔を覗かせた。
でも、基本コメントはせず様子をうかがうのみ。その配信者がどんな人なのか、閲覧している人がどんな人たちなのか知らないから。小心者の私は、そっと影から覗いては、誰にも知られずに去っていった。
とある夜。その日も暇を持て余して、知らない誰かの配信を覗いていた。だけど、その場所はいつもと違った。
妙に落ち着く穏やかな声と、まるで長年の友達のようにコメントする人たち。アットホームで、小さな世界がそこにあった。
しばらく様子を見ていた私は、少し緊張しながら「初見です」とコメントした。枠主の彼はすぐに気が付いてくれて、いらっしゃいと言わんばかりにその輪の中に引き入れてくれた。
「カメラが好きなの?」「僕も好きだよ」「最近どこで撮ったの?」と、新参者の私にも壁無く接してくれて、その温かみを受け取りながら私もコメントを打った。
それが、はじまりだった。
彼は頻繁に配信をしているようだったので、私はほぼ毎日そこを訪れた。私と同じくリスナーとしてそこにいる子たちの名前も、だんだんと覚えていった。
名もなき新参者は、その配信枠の住人へと変化していった。
普段はゲームをみんなでああだこうだと言いながらやっているけれど、その日は確か雑談をしていた。話題は、配信内でやってるゲームのことや水泳のこと、とにかくいろいろだった。
枠主の彼が、リスナーとしてよく顔を出している男の子にスポットライトを充てたところ、これが大いに盛り上がった。そして、そこに参加している人たちがノリで「え、今から枠する?」「行っちゃう?」なんて言ったもんだから、その男の子は直後に配信を始めた。忘れもしない、クッキング配信だった。
みんなで「えー!じゃあ行こう!」なんて言って、ぞろぞろと彼の配信を押し掛けたのだ。
私はまだ新規の人間だしその彼との交流はなかったが、有難いことに私の名前もグループに追加してもらえた。
わちゃわちゃ、がやがや。皆で、賑やかにコメントを打った。私もそっと便乗して、彼ら彼女らとの距離感を推し量りながらコメントした。
これが、枠主の彼やそこの住人の子たちと仲良くなったきっかけと言っても過言ではない。
その後も配信にお邪魔してみんなに挨拶をしたり、うち誰かが配信していたら「こんばんは!来たよ」と声をかけたり。時にはリレーのように配信をつないでいく日もあった。
そんな日々を過ごし、いつしかそこは私にとって新たな“居場所”となったのだった。
毎日誰かとお喋りするのは、まるで学生時代の放課後のようだった。年齢も、性別も、住む場所もばらばらな私たちだったけど、だからこそ不思議な縁でつながって仲良くなれたのかもしれない。本当にいい子たちばかりだった。
こんなにキラキラした日々を過ごすのはあんまりにも久しぶりで、ネットの世界に友達と呼べる人たちができたのも初めてだった。
今はあの時よりは少し静かになって、それぞれがそれぞれの日々を過ごしているけど。ずっと残っていてくれる子や、歩む道が一時的とはいえ分かれてしまった子だっているけれど。それでもずっと道は続いていくのだ。
ネットという宇宙空間にぷかぷか浮かんでいる。
一人きりだったこの世界は、もう一人なんかじゃない。
不思議なご縁で出会った子たちと、手を繋いで。
またみんなで笑いあえる日が、きっと来ますように。