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「サボる力」

「じゃあサボってきますんで、よろしく。」

これは、私が尊敬する上司の口癖である。
会社の規定では休憩時間は1時間半。
それに加え、彼は必ず30分ほどの“サボり時間”を取っていた。

もしこれが仕事ができない人の発言であれば、ただの怠慢としか見なされない。しかし、彼は職場内でダントツの実力者だった。

当時、私は一番の下っ端で、平社員。
サボる上司に文句を言うこともなく、ただ目の前の仕事に集中する日々を送っていた。


時が流れ、その上司はさらに出世し、私もいつの間にか彼と同じポジションまで昇進していた。
その地位に立つと、ようやく見えてくるものがある。

自分が上に立つ立場になると、周囲の働き方が自然と気になるものだ。

仕事中にも関わらず、ダラダラと談笑しながら時間を浪費する者もいれば、休憩や休日を犠牲にしてまで仕事に没頭する者もいる。

そんな中で思い出したのが、あの上司の「サボる」行為だった。

「サボる時間を捻出する」ということは、人一倍の働きと高い能力が求められる。余裕がない人には到底できない芸当だ。

そして、「サボる」と正直に言い切る潔さには、不思議と人を納得させる力がある。中途半端な態度でダラダラするよりも、はるかに信頼を得る。

今になって、私は彼の凄さをようやく理解した。

ひたむきに仕事に打ち込み、それでも堂々と「サボる」と言える人間。
いつしかそんな人間になりたいと思う自分がいた。


だから私は今日も、部下にこう言うのである。

「じゃあサボってきます。あとよろしくね。」

部下は不思議に思うだろうか。

「サボる」の本当の意味を理解した時、彼らもまた、立派な上司になっているのかもしれない。

#心に残る上司の言葉

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