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【オリジナル怪談】一人暮らしの夜
あれは、俺が新卒でN市で働き始めて、一人暮らしを始めて半年ぐらい経った頃だったと思う。
いつも通り仕事から帰って来て、家の隣の定食屋でご飯を食べた。
翌日が休みだったから、ドラマのDVDボックスを見ながら、一人で酒を飲んでダラダラ過ごしていたんだ。
俺の家は当時築2年で間取りが1Kで、
玄関を入ると大きなキッチンがある。
右手に風呂、シンクの横にトイレがあって、引き戸で仕切られた奥がリビングという造り。
リビングに入ると正面にベッドがあって、真ん中にテーブル、ベッドと並行に本棚がある。
その横にコンポやテレビ台とテレビが置いてあって、寝そべりながらテレビが見られるようになっている。
俺はいつもテーブルをベッドに寄せてサイドテーブル代わりにして、
電気を消してテレビだけつけた状態で、いつでも寝られる体勢で過ごしていた。
その日も同じようにしていたんだけど、気づいたら寝落ちしていて、夜中にふと目が覚めた。
俺はいつも、リビングにいる時はキッチンの引き戸を閉めていた。
開いているとなんだか気持ち悪いからだ。
その時も引き戸は閉まっていたんだけど、扉の向こうから音がするんだよ。
ガサッ、ガサッ、ガサッ
なんというか、ビニール袋をまとめて置いておくと、気温や気圧の変化で収縮して音が鳴ることがあるじゃん?
ああいう音がするんだよね。
まあ、ゴミ箱には当然袋をつけていたし、ビニール袋もそこそこあったから、
「何か音が鳴ってるな」くらいにしか思わなかったんだけど。
ガサッ、ガサッ、ガサッ
……音がずっと鳴り止まないんだ。
「そんなに俺、ビニール袋溜めてるか?」と思いながらも、まあいいや寝ようと思ったんだ。
でも、音が変化しながらずっと鳴り続けるんだよ。
ガサガサガサッ、ガサッ、ガサガサ
流石に気になって、引き戸の方に目をやったんだよね。
キッチン側も電気を消していたからよくは見えないんだけど、リビング側のテレビは画面が真っ暗なだけでついているし、
寝ていたから目も暗闇に慣れていて、引き戸のすりガラスは見えた。
そうすると――
俺は目が悪いから見間違いかもしれないけど、すりガラス越しに濃い黒い影が動いているように見えたんだ。
音に合わせて動いているような感じでさ。
「え、泥棒?」と思ったんだけど、当時俺は大学時代からジムに通っていて、泥棒なら捕まえてやろうと思った。
でも「泥棒なら台所で何をやってるんだ?」とも思ったんだよ。
普通、金目のものがありそうなリビングに真っ先に来るだろ?
「いや、これ……泥棒じゃないかも」と思い始めた時だった。
ヒタッ、ヒタッ、ヒタッ
台所から足音のような音が聞こえたんだ。
流石に怖くて、「やっぱり何かおるやん」と思ったんだけど、泥棒の可能性もある。
そう思って携帯で110番を表示させながら、様子を観察してたんだ。
ヒタッ、ヒタッ という音と、
ガサガサ という音が交互に聞こえる。
どうしよう、どうしよう……と考えながらも、
アルコールがまだ少し残っていたおかげか、妙に冷静だった。
「これは人間じゃない気がする」――そう直感して、意を決して、
リビングの電気をつけて、奇声を上げながら引き戸を全力で開けたんだ。
「おら!誰じゃ!」って。
確かその時、手にはゴルフクラブを持ってたと思う(笑)。
引き戸を開けると、台所には何もいなかった。
電気をつけても、当然だけど何もいない。
帰宅後にクイックルワイパーをかけていたから、ゴミ一つ落ちていない。
「ガサガサ」という音が何なのか気になって、キッチン周りでビニール袋を探したけど、
ゴミ箱につけている袋と三角コーナーの袋くらいしかなかった。
ゴミ箱は蓋付きのボックスタイプで、袋の端を触ってみても音なんかしない。
結局、あの音の正体は分からなかった。
その日は怖いから電気をつけたまま寝たけど、それ以降もたまに謎のガサガサ音が聞こえた。
でも特に何かが起きるわけでもなく、俺が引っ越すまで続いてた。
ただ、俺がそのマンションで一番ビビったのは、とある土曜か日曜の朝10時くらい。
ドアノブが ガチャガチャ って回されたんだよ。
「今度こそ泥棒か!?」と思って、ダッシュで玄関に行った。
「鍵を開けようとしてるなら閉めなきゃ!」と急いでドアスコープを覗いたんだけど、誰もいなかった。
でも、視界に入らない所に隠れているかもと思って、30分くらいドアの前で待機してたんだよ。
けど、一向に何も起きない。
意を決してドアを勢いよく開けたけど、誰もいなかった。
その時の方が俺は怖かったな。
だって、強盗だった可能性もあるからね。
あの部屋、いろんな意味で何かが住み着いてたのかもしれない。