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巫女物語4-2 「紅緋の縁結び(べにひのえんむすび)」第2話(第1章の後半)
各章のタイトル:
第1章: 「出会いの紅色糸」(であいのこうしょくいと)
第2章: 「萌芽 – 心の機微」 (ほうが – こころのきび)
第3章: 「波紋 – 想いの行方と小さな騒動」(はもん – おもいのゆくえとちいさなそうどう)
第4章: 「永遠 – 月夜に誓う愛」(えいえん – つきよにちかうあい)
その後、佐伯は散らばった和菓子を拾い集め、改めて拝殿へ向かった。杏奈は、佐伯の後ろ姿を見送りながら、複雑だけれど、どこか温かい気持ちを抱いていた。
「あの人…一体何者なんだろう…でも、なんだか…放っておけない人かも…」杏奈は小さく呟き、自分の袴についたあんこをそっと拭い取った。
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その時、佐伯が落としたと思われる、小さな包みを見つけた。拾い上げてみると、中には綺麗に包装されたお菓子が入っていた。
「きっと、お供え物だったんだわ…」
杏奈はそう思い、包みを丁寧に拾い上げた。綺麗な桜色の包装紙に、可愛らしい水引が結ばれている。どうやら、上品な和菓子のようだ。
「これは…きっと、お供え物だったんだわ…でも、こんなに綺麗な包装で…」
杏奈が不思議に思っていると、背後から声が聞こえた。
「あ、それは…」
振り返ると、佐伯が少し慌てた様子で立っていた。
「すみません、落としてしまったようで…」
佐伯は少し照れくさそうに頭に手をやった。
「いえ、大丈夫です。こちらに…」
杏奈は包みを佐伯に手渡そうとした。その時、二人の手が触れ合った。ほんの一瞬だったが、杏奈は佐伯の手の温かさを感じ、ドキッとした。
佐伯も少し驚いたように杏奈を見つめていたが、すぐに微笑みかけた。
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「ありがとうございます。助かりました。これは…実家が和菓子屋を営んでおりまして、そのお菓子なんです。せっかくなので、お供えしようと思ったのですが…」
佐伯はそう言いながら、包みを開けた。中には、可愛らしい桜の形をしたお饅頭がいくつか入っていた。
「わあ、綺麗…」
杏奈は思わず声を上げた。淡いピンク色のお饅頭は、まるで本物の桜の花びらのようだった。
「よろしければ、一ついかがですか?お詫びと言ってはなんですが…」
佐伯はそう言って、お饅頭を一つ杏奈に差し出した。
「えっ、いいんですか?でも、お供え物…」
「いえ、元々はお供えするつもりでしたが、今は…そうですね、望月さんと分かち合う、という形に変えましょう。これも、何かのご縁かもしれません」
佐伯はいたずらっぽく微笑んだ。杏奈は少し迷ったが、佐伯の優しい笑顔に誘われるように、お饅頭を一つ受け取った。
「ありがとうございます。いただきます」杏奈は小さくお辞儀をして、お饅頭を口に運んだ。上品な甘さが口の中に広がり、杏奈は思わず目を閉じた。
「美味しい…」
「それは良かったです」
佐伯は嬉しそうに微笑んだ。
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「あの…佐伯さんは、いつもこちらに参拝にいらっしゃるんですか?」
杏奈は少し緊張しながら佐伯に尋ねた。
「ええ、毎月欠かさず。この神明宮は、不思議と心が安らぐんです。特に…望月さんのいるこの場所は…」
佐伯は言いかけて言葉を飲み込んだ。杏奈は佐伯の言葉にドキッとした。
「そうですか…ありがとうございます」
杏奈は少し照れながら答えた。
「望月さんは、いつもこちらにいらっしゃるんですか?」
今度は佐伯が杏奈に尋ねた。
「はい、私はここの巫女ですので…」
「巫女さん…そうでしたか。それは…大変なお役目ですね」
佐伯は感心したように言った。
「いえ、そんな…」
杏奈は謙遜したが、佐伯は真剣な眼差しで杏奈を見つめていた。
「望月さんのような、心優しい方が巫女さんを務めているこの神明宮は、きっと多くの人々にとって心の拠り所となっていることでしょう」
佐伯の言葉に、杏奈の胸が温かくなった。
「ありがとうございます…そんな風に言っていただいて…」
杏奈は照れながら言った。
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「いえ、これは私の率直な感想です」
佐伯は微笑みながら言った。
その時、風が強く吹き、境内の桜の木から花びらが舞い散った。
花びらは二人の周りを舞い、まるで祝福しているようだった。
一枚の花びらが、杏奈の髪に付いた。
「あ…」
佐伯はそう言って、杏奈の髪に付いた花びらをそっと取ってあげた。その時、佐伯の指先が杏奈の頬に触れた。ほんの一瞬だったが、杏奈は心臓が跳ね上がるのを感じた。
佐伯も少し驚いたように杏奈を見つめていたが、すぐに優しく微笑みかけた。
「綺麗ですね…」
佐伯はそう言って、花びらを大切そうに手のひらに乗せた。杏奈はドキドキしながら、佐伯の横顔を見つめていた。
夕日に照らされた佐伯の横顔は、とても優しく、杏奈の心を惹きつけた。
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「あの…佐伯さんは、今日は何か特別なご用で?」
杏奈はドキドキを抑えながら、佐伯に尋ねた。
「ええ、実は…少し、お礼を言いたくて…」
佐伯はそう言って、先ほど持っていた紙袋を杏奈に差し出した。
「これは…?」
杏奈が不思議そうに包みを見つめていると、佐伯は微笑みながら言った。
「先日、道で倒れそうになった時、助けていただきましたよね。そのお礼です。大したものではありませんが…」
杏奈は驚いて佐伯の顔を見た。
「あ…いえ、そんな…当然のことをしたまでです…」
「それでも、お礼をさせてください。もしよろしければ、受け取っていただけませんか?」
佐伯は真剣な眼差しで杏奈を見つめた。杏奈は少し迷ったが、佐伯の気持ちを受け止めることにした。
「ありがとうございます…では、ありがたく頂戴いたします」
杏奈は包みを受け取った。ずっしりとした重みがある。
「中身は…私の実家で作っているお菓子です。もしよろしければ、後で召し上がってください」
佐伯はそう言って微笑んだ。
「ありがとうございます。楽しみです」
杏奈は嬉しそうに答えた。
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夕日が傾き始め、境内に灯りが灯り始めた。
「そろそろ、私はこれで…」
佐伯はそう言って、杏奈に軽く会釈をした。
「今日は、ありがとうございました」
杏奈は佐伯に深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。また、近いうちに…」
佐伯は微笑みながらそう言い残し、参道をゆっくりと歩いて行った。杏奈は佐伯の後ろ姿を見送りながら、胸の高鳴りを抑えられなかった。
「あの人…本当に不思議な人…」
杏奈は小さく呟き、佐伯から貰った包みを大切に抱きしめた。
桜色の包みからは、ほのかに甘い香りが漂っていた。
その香りを嗅いでいると、杏奈の心は温かい気持ちで満たされていった。
(つづく)
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ありがとうございました!
(今回の物語は全体として、文字数が少し多めになってしまいました。八回くらいまでかかると思います。次回はもう少し短くしたいと思います)
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