小説「芙美湖葬送」仮目次&執筆資料
以下は小説「芙美湖葬送」の構想・構成・テーマ・展開・物語・登場人物・当時の社会背景・などの書き置きメモす。小説掲載に並行して事前公表します。参考までに。
テーマ
①妻の死を語ることで医療を語る。
②妻の病を語ることで生と死を語る。
③妻の死を語ることで戦争、社会、不幸、格差を語る。
④妻の死を語ることで人生を語る。
⑤妻の死を語ることで未来を語る。
①戦争がなかったら空襲も疎開もなかった。疎開がなければ苛めもなかった。本人が「わたしが受けた苛めは『おしん以上』ということにはならなかった。戦争は兵器によって体を傷つけるが、それ以上に心も傷つける。
おしん以上と本人が云う苛めの生々しい記憶と、その苛め原因の一部になっている貧困、東北の自然を考える。所詮人間は風土の産物である。
また膠原病との闘いを通じて医療を考える、そこにある損得、医療権益について考える、そして妻は死んだ。何のために?何もない。せっかく勝ち取った子供達との暮らしを、病によって、医療によって蹂躙された。戦争の背景となった貧困、貧困によってもたらされた病める心と体を消した。
政府は責任とれ、何で麗々しくNHKを使って東日本大震災だけを支援するのか 神戸もある 熊本もある 沖縄がある 戦争や引き揚げがある なぜそれを無視する? なぜ東日本だけを支援する? それを宣伝するのか 何が目的か 全部税金である 税金は庶民の血と脂である
芙美湖の生涯は消えた。湖は残る。さらなる悲劇を待っている。
「ウエットティシュ、メロンパン、ムトーコーヒー二本、しょうゆせんべい、こぶのおにぎり」とたどたどしい女文字で書かれてある。芙美湖のメモである。
おそらく私がきたときに渡そうと思って書いておいたものだ。妻の文字は、幼稚で汚い。小学生のように頼りない文字である。その文字で、病院のベッドに寝そべって書いた。字自体が歪んで殆ど読みとれない。
それでもだるい体をおして必死に書いたものだろう。見ているうちに切なくなる。しかも書かれた紙片は、その給食用献立の小さな紙片である。おそらく食後に私に渡すのを忘れないためだろう。
芙美湖は中卒である。しかも欠席がおおい。仕事を手伝わされた。それでも卒業できた。妹は卒業していない。出来なかった。なぜか、日本は、実は、かくも貧困なのだ。なにが市民クラブだ、偽善にすぎる。
患者が悪いか医者が悪いか。ほんとうに辛いのは、いつでも弱い立場の人間が利用されること。病院の場合は患者。患者は病院の中で、常に周りに気を遣っている。それだけどストレスになる。
病気を早く治したいから、医者に対しても批判的にはならない。看護婦に対しても気を遣っている。なのに医師も看護婦も、患者に対してはつめたい。医療は、先ずここから直す必要がある。
筋書き・人物
私70歳、妻芙美湖66歳、長女藍子45歳、次女琳子48歳、友人西湖(セイコ)、父、母、初子、山岡、鷹見、男爵 上海帰り、東条、牧師、絵描き、俳優(書き出した15年前の数字である。今私は86歳だ)
芙美湖の死
①その朝芙美湖は死んだ
②霧の朝芙美湖は死んだ~②芙美湖とは妻である~⓷霧は死の扉、死に意味~④洗面所に立ったの見計らうように芙美湖は⑤息を引き取った~⑥人間ってこんなに簡単に死ぬものか?死についての思い。
死想念
①芙美湖は死を身近に感じていた~②やっと峠を過ぎたと思った間隙を縫って死は忍び寄った~③歯を磨いていた時看護婦の絶叫~次女に連絡~混乱する次女~④当直医師の事務的な対応~
①実に呆気なくそれは来た~②予定された死の儀式~六時死亡八時退室~③霊安室へ続く白い道の回想~④ひっそりと裏門から出る
最後のレシート
①通夜の夜、左ポケットから出てきたレシート~芙美湖の遺骸を包んだパジャマのレシート~②「遺体を包むパジャマなら自動販売機で売ってます」~③死に意味、死者の書~④モノとして扱われることへの家族の怒り~⑤デスマスク撮影~モーツアルトのレクイエムを聴いて徹夜
最後の別れ火葬場・通夜
①火葬場で卒倒する次女必死に冷静に装う長女~②骨が赤く染まっていた~③雨に柿が濡れていた
参考資料・メモ・芙美湖との出会い
①変な少女
②芙美湖との出会った みすぼらしい少女 踊るときだけ生きがえった~③芙美湖(フミコ)と西湖(セイコ)~④二人とも貧しい不幸な過去~疎開先で苛められた芙美湖~家族をみな空襲で失い叔母に育てられている西湖~⑤不幸な二人で湖のように静かに死にたい~⑥二人で死に場所として富士五湖に行き、⑦野尻湖で倒れる~⑦偶然居合わせた同級生の山下に助けられる~⑧以来再生を誓い芙美湖と西湖に変える~親には無断で~呼び名だけ
盛り場裏通り
グランド&キャバレーは~昭和30年初頭の下町 貧しいが活気あふれる街~借金まみれで東京に夜逃げしてきた親子~流転の後グランドに拾われる~昼はダンスホール夜はキャバレー~そこに蠢く貧しい不幸な青春群像~高田、我孫子、男爵,東条、美男子、かまごじら、山ちゃん、絹江、上海帰り韓国人の経営者~夜逃げ同然の親子 拾われる 二天門通り
芙美湖は死を予感
おもえば芙美湖は死を予感していた~尊厳死協会に自ら入会している~今回は帰れないかも~おばあちゃんも緩慢に自殺した~そんな弱気な芙美湖へ婦長の苛め~主任看護婦も同調~人は生きることを放棄したときに死ぬ~そして主治医へありがとう~
人は生きることを放棄したときに死ぬ~おばあちゃんも緩慢に自殺した
そしてひっそりと去った
ステロイドで顔がむくみ老けが覆っていた~車いすで私を息子と間違われる度に顔が曇った~私の片眼失明を悲しんだ~パパ人間が変わったわ~入浴を嫌った~不意に倒れるのを恐れた~終わりを予感していた~
野尻湖で暗闇に佇んでいた少女が連想される~ある夜自宅のベッドに佇む少女を見る~室内が赤外線灯のように赤かった~あれは芙美湖の生き霊だ
みなどこかで逃げていた
思えば芙美湖との出会いも逃避だった~そんな時代だった~絹江は外苑前に土地をもつお嬢さんだった~美貌と気品でホールの人気者だった~
満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。