小説「童女トン」2-読み切り版
母・トンは小島で生まれた
幼名をトンという。三回再婚したからその都度姓は変わった。でも名前は変わっていない。いや、トンじゃない、本当はトシだ、と母は怒る。当時は戸籍謄本も筆記謄写だったから、役場のアホが書き間違ったのだと、母は怒った。
その通り。トンは幼名である。ええ、ちょうちょうトンぐぁや? おやおやトンちゃんじゃないか?こんな具合に子供に話かける言葉だ。それがそのまま戸籍に載った。100年以上も前のことだ。いまさらいっても始まらない。当時はすべて筆耕謄写版だから。職員が