おしいれのぼうけんの冒険 タナカダイスケ
ぼくはこの文をきみたちに向けて書いています。「きみたち」とはだれか?それは
ツメを切るとなんか感じがかわってイヤだからツメを切りたくないきみ
首がチクチクするセーターをむりやり着せられてるきみ。
はやくおふろに入りなさいといわれるきみ。
夜、眠るとそのまま死んじゃうんじゃないかと眠るのがいやなきみ。
そんなきみたちに、ぼくは書いています。
ぼくはきみたちに、本をしょうかいしたいと思っています。
きみたちに向けて書いているけど、ぼくはきみたちが本を読むかをしりません。本を読みますか?本は好きですか?本が好きなきみなら、もしかしたらぼくがこれからしょうかいする本をもう読んでいるかもしれませんね。
きみたちのお家の近くにとしょかんはありますか?としょかんに行くとわかると思いますが、本にはいろいろな本があります。大きな本や、小さな本、厚い本に薄い本。本を開き、中を見ると、もっと多くの違いがあることがわかるでしょう。漢字のたくさんな本、絵がたくさんの本。難しい本、やさしい本。大人が読む本、そして、子どものための本。
もしかしたら、子どもの本は子どものほんのコーナーにまとめられているかもしれません。
あまりにたくさんの本があって、もしかしたらびっくりするかもしれませんね。
たくさんの本があるのに、そこには子どもが作った本はありません。子どもの本のコーナーにある本も、ぜんぶ大人が作った本です。もしかしたら、絵や文を子どもが作った本もあるかもしれないけど、本を作るのは大人です。
きみたちにおふろに入りなさいとか、早く家に帰りなさいとか、あれをしなさい、これはしちゃダメ、という大人たちです。
だからなのか、大人が作った「子ども本」は、「あれをしなさい、これをしちゃダメ」と言ってることが少なくありません。
ツメをちゃんと切りなさい、かみのけをきちんとしなさい、きれいに服を着なさい。
そんな本だったら、読みたくなんてありませんよね。ぼくもそう思います。そんなの毎日うんざりするくらいきいてることですから。
でも、中にはすてきな「子どもの本」もあるんです。そんなすてきな本ときみがであわなくて、コンビニのまえでおかしを食べたり、公園のすいどうを出しっぱなしにしたりしながら大きくなって、自分に子どもができたらその子に「あれをしなさい、これはしちゃダメ」なんて言うようになったら、ぼくはとてもかなしいのです。だから、ぼくはきみたちにこの本をしょうかいしたいと思います。
その本は、ふるたたるひさんが文を、たばたせいいちさんが絵をかいた、『おしいれのぼうけん』です。
1974年にかかれた本なので、もしかしたらきみたちのママやパパも子どものころに読んだことがあるかもしれませんね。
きみたちにはこわいものがありますか?
この本の、さくらほいくえんの子たちにはこわいものがふたつあります。
ひとつはおしいれで、もうひとつはねずみばあさんです。
さくらほいくえんの子たちは、悪いことをするとおしおきとしておしいれに入れられます。入れられた悪いことをした子はまっくらなおしいれがこわくて、泣きながらせんせいにあやまります。
ねずみばあさんはせんせいたちがやるにんぎょうげきに出てくるこわいこわいばあさんです。
ある日のひるねのじかん、あきらとさとしが悪いことをしておしいれに入れられるのが、この『おしいれのぼうけん』のおはなしです。ふたりはまっくらな中でとてもこわい思いをしますが、「がんばれ、がんばれ」と声をかけあってはげましあいます。どうしてもこわいときは、「手だ、手をつなごう」と手をつなぎます。それでもだめなときは、ポケットに入っていたミニカーを出して、そのくるまが夜の道を走っていくのをそうぞうしてがんばります。まっくらななか、ふたりのまえにねずみばあさんが出てきて、たくさんのねずみに命令してふたりを食べさせようとします。それでもふたりは負けません。
ふたりは自分たちは悪いことをしていないと思っています。ふたりはひるねのじかんにおいかけっこをしてしまいました。それで、他の子の手をふんだりしたのです。悪いことですか?もしかしたらそうかもしれません。でも、ふたりはそれでおしいれに入れられるのはあんまりだ、まちがってると思っています。これがもし、「大人の書いた大人のための子どもの本」だったら、ふたりはばつをくだされるでしょう。でも、この本ではそういうことはありません。ふたりはがんばります。せんせいにあやまりません。なぜなら、自分たちはまちがっていないと信じているからです。まちがっていないのに、あやまるのはおかしいと思っているからです。
ぼくはふたりはとても正しいことをしていると思います。他の子の手をふんでしまったのはいけないけど、まちがっていると思えないことにあやまるのはことはありません。もしもきみが子どもで、相手が大人でも、きみの力がとても弱くて、相手の力がとても強くても。まちがっていないと信じられるなら、あやまらなくていいし、言うとおりにしなくていいのです。
ふたりは手をつないで、想像力をつかってたたかいます。想像力とは、夜の空にせいざを作る力です。おおむかしの人は、夜の空の星をつなげて、空に絵をかきました。それがせいざです。はなればなれの星と星、点と点をつないで、絵をかくのが想像力です。点のようなぼくと、点のようなきみが手をつなぐこと。そうすることで、ぼくがひとりだったときや、きみがひとりだったときよりもずっとずっと大きな力を出すことができるのです。
この本は、そのことを教えてくれます。
おしいれに入れられたふたりがどうなるのかは教えないでおきます。気になったきみは、としょかんに行って『おしいれのぼうけん』を探してみてください。どこにあるのかがわからなかったら、としょかんの人にきくとやさしく教えてくれるはずです。
だいじょうぶ、きっとスッとするおわりかたですから。