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部活を辞めたいと思ってる人へ
私は小学校1年生から高校3年生までの間、ほとんどなにかしらのスポーツをしていた。小学校6年間はサッカーの習い事、中学校は陸上部、高校ではソフトボール部に入った。
わたしはスポーツがそんなに得意ではなかった。サッカーの試合でゴールを決めた記憶は一切ないし、陸上では100メートル走で15秒を切ったことはなかった。(女子100メートル中学生記録は11秒台。)ソフトボール部に至っては、マネージャーのつもりで入ったのに人数不足でプレイヤーにさせられ、しぶしぶ一番ボールのこなさそうなポジションを守っていた。いや、守れた記憶も一切ない。
スポーツのセンスもなく、かといって熱心に練習するような根性もなく、たくさん寝ることと絵を描くことが趣味のわたしが、なぜ、こんなにもスポーツを続けてきたのか。
理由はふたつある。
ひとつめの理由は、「やめることが悪いことだと思っていたから」。
高校のソフトボール部時代、やるつもりのなかったソフトボールの練習で、先生の打ったボールが顔面に当たった。
公式戦の直前、ベンチメンバーだったわたしと同級生ふたりは、コーチなしで練習をさせられた。
負けが確定した試合の、最後の打席に代打で立たされた。
練習の帰り道、決まって誰かがキャプテンの悪口を言っていた。
いつもいつも思っていた。「部活、やめたい。」
高校1年生のとき、同じ1年生のひとりが「やめたい」と言い出した。まだ夏になる前のことだったと思う。
人員不足のソフトボール部は、それを阻止するために話し合いの場を設けた。その子をなんとかやめさせないように説得する話し合いだ。
わたしはそのとき、その子に、「わたしもつらくてやめたいと思うことがある。それでもがんばってる。一緒にがんばろう。」というようなことを泣きながら言った。
もしあのときに戻れるならば、あの子に謝って発言を撤回したいほどにトンチンカンな言い分だ。
やめたいと言ったあの子はきっと思っただろう。「やめたいほどつらいならやめればいいじゃん」
その子は部活をやめた。部活をやめてバイトをはじめた。毎日とても楽しそうに笑っていた。わたしは「やめたい」と言えたあの子が、羨ましかった。
わたしの両親は、わたしやきょうだいが何かを「やめたい」と言うことに、あまりいい顔をしなかった。親だけじゃない。学校の先生や、部活のメンバー、誰もが「やめたい」に否定的だったように思う。
高校生のわたしにとって、「続ける」ことはいいことで、「やめる」ことは悪いことだった。つらくても、無理してでも、とにかく続けること。とにかく引退まで、ソフトボール部に所属し続けること。それがいいことだと本気で思っていた。
もうひとつ、わたしがスポーツを続けてきた理由は、「スポーツを自分のステータスにしていたから」だ。
高校時代、スポーツをやっている人はだいたい明るくて、クラスの人気者もほぼ運動部。バレーボール部はいつも率先して行事に参加し、サッカー部はみんな彼女がいた。野球部は大声で校歌を歌い、冬にはみんなで雪かきをしていた。
友達を作るのが苦手で、人の輪に入っていけないわたしにとって、「運動部所属」は、教室に居場所をつくる唯一の方法だと思っていた。
絵を描くのが好きなら漫画研究部に入ればいいのに、教室で居場所をつくるには運動部に入るしかないと思い込んでいた。
そんな気持ちからソフトボール部に入って、わたしはほんとうに居場所を得られたのかというと、そうではなかった。
見えないところでお互い悪口を言うような関係が、友達と言えただろうか。部活の時間以外で部員がいてよかったのは、水泳のゴーグルを忘れた時に他のクラスの部員に借りられることくらいだった。練習試合をずる休みするんなら、漫研で好きな漫画の話をしあえるほうが、よっぽど楽しかったんじゃないだろうか。そもそも部活に入らなくたって、バイトでも趣味でも好きなことをすればよかったんじゃないだろうか。高校を卒業して5年くらい経つけれど、ソフトボール部のメンバーで今でも連絡をとってる人は、ひとりもいない。
きつい練習や、部内の人間関係に悩んだことを、「つらかったけど、やっててよかった。無駄にはならない。」なんていう人もいる。もちろんそれらで得られるものもたくさんあると思う。でもわたしは、高校3年間のソフトボール部時代が、わたしにとって「無駄だった」と感じる。
もしも今、ゴーグルを忘れたときのためだけに、無理して部活を続けている人がいたら、せっかくの高校生の3年間を「無駄だった」なんて思わないように、自分のこころに正直になって、好きなことをしてほしい。部活をやめて時間ができたら、もちろん、勉強もちゃんとしたほうがいい。行きたくない部活を引退まで続けて、受験に影響がでるなんてもったいなさすぎる。
つづけるだけが、えらいわけじゃない。
やめることは決して、悪いことなんかじゃない。