大切な本⑤「兎の眼」
初めて自分で買った本
突然の告白のようになってしまうが、小学校一年時の担任教師から数年にわたり性暴力被害を受けていた。幼稚園から小学校にあがったばかりの自分が年嵩の体も大きな男性、それも教師という絶対的権力者に抗うことなどできるはずもなく、一連の辛い経験は私の人生にずっと陰を落としたままだ。
職員室でも変わり者として孤立していたようだけれど教育熱心ではあって、灰谷健次郎さんの本を教えられたのもこの教師だった。親交もあったようで、講演会か何かの楽屋に連れられて直接サイン本をいただいたこともある。
世間的には映画化もされた「太陽の子」のほうが読まれていたのかもしれないけれど、私はなぜか小谷先生とこどもたちのストーリーにひどく惹かれて、まだ文庫もなく1000円以上もする単行本をなけなしのお小遣いをはたいて買った。大きな買い物にどきどきしつつ、ずっしりした本の重みが誇らしかったことを憶えている。
差別や公害、貧困など様々な社会問題を考えられるほどの年齢ではなかったけれど、エッセイも含め灰谷さんの作品が放つメッセージは、人としてどうあるべきか、子どもなりに思い巡らすきっかけを与えてくれた。
自分は幼稚園時園庭での事故で脚の小指を切断しているのだけれど、それを知っている加害教師は「さっちゃんのまほうのて」で読書感想文を書くように半ば強要した。作品には何の罪もないのだけれど、強いられて書いた感想文はやはり上っ面だけの完成度でコンクールにはかすりもせず、お涙頂戴のストーリーを期待していた教師に対し「ざまあみろ、お前の思うようにはさせない」と心であっかんべーをしたことは今でも忘れない(笑)