【読書】『ミャンマーの柳生一族』

辺境作家の高野秀行氏が早大探検部の先輩である作家・船戸与一氏のお供として2004年にミャンマーを旅したノンフィクション。

題名の通り、ミャンマーを江戸時代の日本に例えて描いている。軍事政権を徳川幕府に、軍情報部を柳生一族に、各州を外様藩に、という次第である。かなり思い切った描き方であるが、娯楽として読む限り、これは成功していると思う。馴染みのない国の政治状況が飲み込みやすくなることで、旅先の人々・風景・出来事の面白さに集中することができる。

高野氏はミャンマーを何度も訪れ、少数民族の生活に深く入り込んだ経験があるが、今回の旅は珍しく表の玄関から乗り込んだ形だ。高野氏の著作にしてはライトな旅なのかもしれない。ちなみに、ミャンマーのディープな部分を見たい方は、『アヘン王国潜入記』をお薦めする。奥地の少数民族の村に住み込み、アヘン栽培に従事する内容だ。

柳生一族とは一体何者なのか!?

先程この旅を「ライト」と評したが、旅の中で様々な人間模様が見えてくる。それを引き出すのに一役買っているのが、旅の主人たる船戸氏の自由奔放・単刀直入すぎる言動だ。政治的に閉ざされたミャンマーの柳生一族が思わずつられて本音をさらけ出すところは面白く、言ってから「やべっ」と困惑するのもまた良し。柳生、自重すべし。

本作は全編にわたって軽妙さによって貫かれている。プロローグから「ミャンマー柳生おそるべし」と煽り気味だが、実態は全く異なり、いい意味で脱力感たっぷりに描かれている。ここはひとつ読み手も大袈裟に前のめりになり、「柳生一族とは一体!?」からの肩透かしを食らうのが吉であろう。

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