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むつき
2020年10月21日 19:42
あの夜から早いもので十年の月日が流れていた。世間を騒がせた事件は、もうすぐ時効を迎える。紅林は、物憂げに無精髭を撫でた。元支店長の男が柿崎の部屋に訪れた時、そこに紅林が隠れていたことを男は知らない。書斎の本が堆く積まれた一画の影にスペースを作って柿崎との会話を盗み聞いていた。それは柿崎が指示したもので、つまるところ諸々の説明が面倒だから隠れて聞いていろ、ということだった。そこで分かったのは銀
2020年10月13日 15:11
閑散としたアパートの二階にインターフォンの音が響いた。しばしの間をおいてドアが僅かに開けられる。実年齢よりも若く見えるすっきりとした顔が不機嫌そうに出てきた。「やぁ、しばらくだな。柿崎」言われて柿崎は更に顔をゆがめた。「何しに来たんだい?」「いや、何って時間ができたから、昔話に花でも咲かせようかと」柿崎は訪問者の顔を睨み、ちらっと視線だけで周囲を窺った。日曜の昼だというのに人の声ひと