夏の1コマ|オリーブの木陰から、新麦入荷しましたって。
オリーブの実を食べるより、その葉を眺めるのが好きだ。
実りは秋だが、細めでしゅっとした形の葉が互いに身を寄せ重なり合って、いきいきとのびてゆくのは日差しが眩しい夏である。
かすかな青みをおびたグリーンの葉は、種類によっては光の加減で銀色にも見えることがある。
大きく育ったオリーブの木は、勢いづいて波を描くように葉を茂らせ、自由に枝をのばしていく。
おしゃれなカフェやイタリアンの店先でお目にかかるたび、いつかはうちの玄関にお迎えしたいと、この夏もまた熱い眼差しで見つめてしまうのだ。
とある私鉄沿線の駅を降り、お目当てのパン屋に向かう。
夏休みの時期でもあり、店内で食事をする席に着くためには、ある程度の行列は覚悟の上だ。
奔放に枝葉を持ち上げるオリーブの木の陰に、だいぶ色の馴染んだ藍色の暖簾が見えた。
真夏の炎天下、パンを求めて並ぶ人びと。
お店の方から、申し訳なさそうに冷たい飲み物を手渡される。
順番を待ちながら、黄色い貼り紙が目にとまった。
〝新麦、入荷しました〟
思いがけず、小麦前線の通過をここで味わえることを知った。
小麦やレーズンの天然酵母を使った全粒粉パン、ライ麦のハードパン、大小さまざまな種類の食パン、季節の素材を使ったキッシュ、見たこともないほど頑丈そうながっしりとしたタルトなど。
ああ、そんなパンたちを目の前にするまで、真夏日の行列は1時間ほど続いたのだ。
オリーブの木陰は、見た目ほど涼しくはなかった。
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思いのカケラが届きますように。