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一目惚れした彼

「美しい」と思うものはいつだって洗練されて完成されている。「その存在」自体が「そう」であるから、それを作り出しているそれ以外のものは蛇足に過ぎない。例えばそう……洗練され完成されたチャーシュー麺にワンタンをトッピングなどしないように……あれは「チャーシュー麺」という形で完成された存在であるからして、ワンタンを味わいたいのなら多すぎるチャーシューが蛇足であるように……。

 何が言いたいかと言うと、タイトルの「一目惚れした彼」である。
 私の短いようでそうでもない今のところの人生史上、「一目惚れ」したと鮮明に思い出せるのは古川農園の肉そばだ。肉そばなので「彼」とも「彼女」とも言えないが、そのへんは昨今色々議論されるLGBTQの観点から彼とも彼女とも言わなくていいだろう。やつは肉そばだ、肉そば。

 丼を覆うチャーシューの、並びのなんと美しい事か。その完成された作品に箸をいれるのは申し訳ない気持ちになるが、貪らずにはいられない。   しかし、今すぐ丼ごと齧りつきたい本能を抑え、スープをすする。鼻腔をくすぐる醤油の優しい香りに安心する素朴な出汁とチャーシューの脂が混ざったコクが口内に広がり、身体中に浸透してゆく。食べごたえがあるのにスープの邪魔をしない中太の多加水の縮れ麺をすすれば、あぁ、この上ない幸せの味がする。

 その店は、たぶんきっと元々農園なのだろう。だって「古川農園」だし。プレハブのような店舗の壁に「やさい くだもの」って書いてあるし。しかし確かにラーメン屋で、並んでいるのは、近所で何らかの工事に従事している作業員と近所に住むお年寄りという常連らしき人々と、食べログの口コミ投稿が趣味らしきラーメン通っぽい連中だ。偏見がすみません。でもそういう人種しか並んでいないお店は信用度が絶大です、はい。

 一目惚れする美しい存在は、洗練され完成されている。
 その美を崩したくはないが、己の本能に従えば、姿形を壊して食らって自分のものにする。
しかし、一目惚れした美しさだけが脳裏に焼き付いて離れない。

 最後に言いたいことだけ書けば、私はラーメンだ大好きだ。正しくいえば、好きなラーメンが好きだ。

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