からあげ。28
リビングに向かうといい匂い。
からあげを母さんが作っていた。
何にもできない自分に対して、母さんは何も言わずにいつも食事を用意してくれる。ただ、母親の役目はこうなのだと、無言で訴えかけてくる。
「無償の愛」
そんな言葉が、ふと頭に浮かんでくる。
父親からの愛情は明らかに
代償の愛
とでも言うものだろうか。
何かを成して、報酬に愛が戻ってくる。
無償の愛というのは、中々気づけないもので、もちろん感謝なんてものをする暇のないほどに、勝手に身体に心に染み込んでいる。
そうだ。
初の小説はからあげってタイトルにすっか。
短編小説「からあげ」
私はからあげが大好き!。
肉じゃがもいいけどさ、やっぱりからあげだよね
だってかわいいじゃん!
なんでかって?
そりゃあ、まずニワトリがかわいい!
こけこっこーってかわいくない?
かわいいから食べちゃいたいって表現があるけれども、ほんとにそう。
私はね、からあげを食べるのは好きだけれども、誰かに作ってもらった、からあげがすき。
自分で作ってみたのだけれども、うまくいかなくてね、あちちち!ってなっちゃって、厭になっちゃったの!
だから、好きな人に好きなだけ、からあげを作ってもらって、たーーくさんたべるのがすき。
私とからあげって、親友だと思っている。
もちろん、たべる側と食べられる側で関係性は弱肉強食なのだけれどもね、だけれども、愛してるから食べたいの。
わかるかしら。
食べてしまいたいくらいに愛している。
もしも、恋人だったらば、食べられないから、食べられる恋人ってのが素敵じゃない?
相手にいろいろと気を使って、相手に幸せになってもらうために努力するのは大好きなのだけれども、それと同時に、愛されて、愛されて、食べられるのもすき。
だって、人間だって、食べたり、たべられたりするでしょ?
だからね、食べ物を愛するという行為そのものは、人間に向けるそれと変わらない。
ひらがなで出来たことばも大好き。
だってかわいいじゃん
言葉も食べてみたいけれども、吐き出すことしかできないのは悔しいのだけれども、誰かから吐き出された言葉を食すことはできる。
だからね、愛がいっぱい。
か、ら、あ、げ
~完~
小説を書き上げて、上野公園をぶらりと散歩、どこからか、音楽が聞こえ、引き寄せられるように会場に着く。
人はまばらで20人、いや、30人だろうか。
急遽開催されたらしく、開演前に演者を募集していた。
僕は、なんとなく名前を書いてみて、座席に座った。
ベースの音、ギターの音、ドラムの音。
音楽に合わせて、詩人が謳う。
詠う。
ああ、こんな音楽の楽しみ方があるのか。
と、思いつつ、なんとなく書いてしまった名前にほんの少し後悔した。
こんな舞台に僕は立てるのか?
「はーい。ではお次はみつおさむさん。」
名前が呼ばれ、ステージに立つ。頭が真っ白。
手にあるのは、さっき書いたばかりのからあげ。
「みつおさむさん、オーダーはありますか?」
「あ、じゃあ、元気に楽しく、気持ちよくでお願いします。」
始まった。
呼ばれる順番が遅かった為、今まで詠んでいた人を必死に真似た。
終わった頃には僕は無意識に満面の笑みになっていた。