FMクマガヤに聞く! コロナ禍でコミュニティFM局ができること
2020年は新型コロナウイルスの影響でステイホームやテレワークという言葉が飛び交い、仕事や生活様式が大きく変化した一年でした。
テレビでは連日、新型コロナウイルスの話題が取り上げられ、情報番組ではコメンテーターが電話やリモートで出演する姿が今では当たり前の光景になりました。
キー局と呼ばれる大きな放送局での変化はわかりやすく目にすることができますが、なかなか報道されない地方のメディアにはどんな影響があったのでしょうか。今回は全国に300以上ある地元密着型のラジオ局、「コミュニティFM」に話を聞きました。
インタビューしたのは埼玉県熊谷市・行田市を放送エリアとした「FMクマガヤ」の局長、高井昭博さん。
FMクマガヤは2019年4月に開局し、朝7時から夜10時まで熊谷駅前にあるスタジオからすべての番組を生放送している放送局です。
高井さんは局長として番組制作をするだけでなく自身もパーソナリティーとして放送に携わっています。
コロナ禍で地方の放送局に起きた変化とは
「開局してちょうど1年経ったタイミングで緊急事態宣言が発令されました。その時期、リスナーさんからのメッセージの数が昨年は月に700通ほどだったのが、約2100通と3倍になったんです。在宅ワークなどでおうち時間が増えて地元のラジオ局を聞く人が増えたのかなと思いました。市内で学校が再開された6月から緩やかに減りましたが現在も前年比で倍のメッセージをいただいています。まだまだ認知度は低いですが、それでも地元のFM局を知ってもらうきっかけになったと感じました」
ステイホームの影響で約3倍に増えたメッセージの中で、高井さんは印象的なメッセージがあったといいます。
「私は出身が他県だったので、担当した番組内で『この状況でなかなか地元に帰ることができない』という話をしたときでした。関西地方に単身赴任中で、家族が熊谷に住んでいるという方からメッセージが届いたんです。『単身赴任になって毎月1回は自宅のある熊谷に帰っていましたが、コロナ騒動で2ヶ月帰っていません。家族に会いたいけど、家族のことを思うと私は帰ることはできません。早く通常の生活が戻ってほしいです』という内容でした。パッと見、よくある普通のメッセージなんですがこの文章にいろいろな思いが込められていると感じました」
放送の時期は本来ならGW期間中。熊谷に住んでいる家族に会いたい。でも自分が感染のきっかけになったら家族にも地元にも迷惑をかけてしまう。そんな葛藤がメッセージから伝わってきました。
「きっと私の話とリンクしたんでしょうね。どんな思いで送ってきてくれたのかと考えたらグッときてしまって。今までで一番うれしいメッセージでした。ラジオをやっている意味があるなって思ったんです」
それ以降その方からのメッセージは無いそうで、
「ラジオって本当に一期一会ですよね。きっと家族がいる熊谷の情報を得ようとして、たまたまFMクマガヤにたどり着いて聞いてくれたのかなと……」
ゆっくりとその時のことを噛みしめるかのように高井さんは話します。
他にも同様のメッセージが局に届きました。
ステイホーム中に家族や友人にも話せない心の不安や気持ちを吐き出せる場所をFMクマガヤが担っていたのかもしれません。
街の人が何を求めているのか、地元放送局が伝えるべきこと。
今回のコロナ禍で番組の放送内容に変化はあったのでしょうか?
「以前は毎日のようにスポンサーのお店からリポートを入れていたのですが、こんな状況なので配慮をしました。感染防止の面で我々が行く事によって迷惑になってしまうこともあるので」
リポートは緊急事態宣言発令後、ほぼできなくなったといいます。
また、連日テレビで放送される感染者数の報道にリスナーからあるメッセージが届いたそう。
「『必要な情報だけど、毎日感染者数の報道を見ると不安になるし怖いからテレビは見ずに地元のFMクマガヤを聞いています』というメッセージが届いたんです。
私たちは熊谷・行田の放送局なので全国のどこそこでクラスターが起きたというような話を取り上げる必要はありません。この街に一番近いメディアとしてやることは『この街で暮らす上で必要な情報』なんです」と高井さん。
「街中のお店の営業時間変更や定休日情報、テイクアウトを始めたなど、リアルタイムで街の情報を発信することだと思いました。FMクマガヤはすべて生放送なので、目まぐるしく内容が変わっても連絡をもらえばすぐに発信をすることができます。そういった情報を伝える中で、手洗いうがいなどの感染防止情報も入れて意識が高まるよう伝えていました」
コミュニティFMだからこそ出来ること
FMクマガヤではお店や街の情報だけでなく、コンサートが中止になった熊谷市出身のオペラ歌手を招いてラジオリサイタルを放送したり、数々の特別番組も放送したりしました。そんな特別番組で反響がひときわ大きかった番組がありました。
それは緊急事態宣言を受け臨時休校になった熊谷市内小中45校、高校、特別支援学校の先生が生徒に向けてメッセージを送る番組です。
「過密スケジュールでの放送でしたが先生たちも全面協力してくれました。校歌を番組内で流したんですが、番組のために先生が録り直してくれた学校もあったんです。在校生からは先生に会いたい、卒業生からは懐かしいというメッセージがたくさん届きました。今でも営業先でFMクマガヤですって言うと学校の番組聞いたよって声をかけられるんです」
自分の母校の校歌がラジオから流れる。それだけで元気をもらえたと話す年配の方もいるのです。
学校再開の日に備え準備を進める先生と、ステイホームで友達にも会えず学校再開を待ちわびる生徒の想いをラジオが繋ぎました。この番組は企画をしてから数日で放送までに至ったといいます。
「県域局のような大きい局では制作までに多くの段階があるため、放送までにもっと時間がかかったでしょう。やろうと言ってから実行までのスピード感はコミュニティFMならではです。『小さなラジオ局だからこそできた大きな番組』じゃないかと思います」
そう話す高井さんはどこか誇らしげでした。
変わること変わらないこと
まだまだ新型コロナウイルスは猛威を振るい、今後も続いていくであろうこの状況でどんな番組制作をしていきたいですか?
「コロナ禍で伝える内容に変化はあっても基本は変わりません。局のコンセプトが『今を伝える』なので、それが全てです。『今』を伝えるために生放送をしているのでそれは変わらないし、変えてはいけない。開局して2年も経っていない放送局だけど、この街に常にそばにいる存在でありたい」
「例えば、『放送で、〇〇でこんなお弁当売ってたよ』って話したら『買いに行きました 』てメッセージが来たり、『放送を聞いてお客さん来たよ』てお店の人も報告をくれたりがあるんです。こういう人をもっと増やしたい。人が繋がっていくというのがポイント。行動につながる放送をしていきたいです」
高井さんの言葉の端々から、市民の気持ちに寄り添いたいという温かい気持ちが伺えました。そしてこれからも街に必要な「今」を伝えていく責任感と何か楽しそうなことをしてくれそうな期待を感じました。
「今を伝える」というのは全てのメディアに共通する言葉でしょう。その中でコミュニティFMだからこそ伝えられる街の「今」があります。街ごとにいろいろな「今」を知ることができそうですね。
今やスマホのアプリやインターネットで、全国どこでもラジオを聞くことができます。アプリを立ち上げて放送局を選ぶだけで、その街の「今」を聞くことができます。コロナ渦でなかなか地元に帰ることができないというあなたもラジオの前で地元の「今」と繋がってみてはいかがですか?