マーケティング思考の営業マネージャーの育て方 #SaaSLovers Day14
こんにちは!
2022年の#SaaSLovers14日目を担当していますクラウドサーカス株式会社の田中です。#SaaSLovers とは、有志でSaaSに関するブログを書く企画です。今回で5回目となり、今までで90記事くらい公開されているようです。@ShoheiKomatsuさん、企画運営ありがとうございます!
前置きを飛ばして結論から読みたい方は、以下目次の「マーケティング思考の営業マネージャーを育てる」の部分からお読みください。
自己紹介
会社紹介と主な役割
簡単に自己紹介します。
弊社はCloud CIRCUSというデジタルマーケティングツールを開発提供している会社です。
指原さんを起用したCMを打たせてもらっているので、「何か見たことある!」となっていれば嬉しいです。
これからマーケティングを開始(強化)する企業様をメインターゲットにして、安価で使いこなせる総合マーケティングツールを提供しています。
2022年3月時点でちょうどARR20億を超えたくらいのSaaS企業です。
その中で私はBtoB企業向けの事業を統括しております。
簡単な経歴
2008年に新卒で今の会社に入社し、めちゃめちゃアナログなアウトバウンド営業からキャリアをスタート。苦しみながらも成果を上げられるようになり営業マネージャーを経験後に、いわゆる今のTheModelの形になるまでのマーケ、IS、CSの立ち上げからグロース、新規事業の立ち上げを経験させてもらいました。その過程で会社の体質もインバウンドやサブスクへと変革してきた という経歴です。
なぜこの記事を書こうと思ったのか
いまSaaS企業で起きている問題
皆さん、SaaS企業であれば大半の会社が分業型の組織になっているかと思います。(例:マーケはリード獲得、ISは商談獲得、FSは受注獲得、CSはチャーン防止や継続率をメインのKPIにして活動する)
主に以下のような問題が起きている企業も多いのではないでしょうか?
目標未達の場合、どうしても他責になってしまう
マーケの人材不足(人数、専門性)
ISからの供給量と質のバランス問題
口に出して言う人は少ないかもしれませんが、
「アツいリードが少ないから商談獲得目標がいかないんだ」
「商談が供給されないんだから受注目標に至らないのは仕方ない」
「営業が変な案件ばっかり取ってくるから解約が多いんだ」
「そもそも商品が魅力的じゃないからCVが増えない」
といった具合に、一つ前の工程の部門の影響をモロに受けてしまうため、このようなことを1mmも思わないのは聖人くらいです。(言い過ぎ)
そして、日本のマーケターの人口はまだまだ少ないので、よほど有名か魅力的な会社でない限りはマーケターはどの会社でも不足しています。あらゆるチャネルや施策を完璧にこなせているマーケ組織はかなり稀有なので、上流の工程が手薄になったり施策が滞っていたり、極論いうと未達になってしまう確率が上がってしまいます。
アツいリードの数は少ない、でもFSへの供給量は確保せねばならない。となるとISから供給されるアポの質が落ちてしまうといった更なる悪循環に入っていってしまいます。販売側は商談だと思っていても、購入側は情報収集だと思っているケースはどちらにとっても良い時間になりません。
この問題を解決するには?
私はこの結論に至りました。
もちろん前工程の仲間を信じて待つのも正しいですし、お金をかけて人やリードを増やすこともできるかもしれません。
しかし、潤沢な人材やマーケ予算がある会社ばかりではないため、いわゆる正攻法でこの問題を突破するのは困難です。
そして他責で不満が募り続けるくらいなら、自分も当事者となってくれる上流から関わる人を増やして、マーケ思考の人材を各部門で育成することが出来れば根本の問題が解消しやすいと私は考えています。
マーケティング思考の営業マネージャーを育てる
他責問題、マーケ人材不足問題、商談の質問題、どれもマーケ思考の営業マネージャーを増やすことで解消に向かっていきます。
前置きが長くなってしまいましたが、ようやく本題に入ります。
マーケティング思考の人材とは
本noteで言うマーケティング思考の人材とは、以下のような人を指しています。
商品コンセプトをより魅力的に設計し、実現させられる(事業設計力&開発要件設計力)
商談数や受注数(率)を底上げする施策を自ら考え実践できる
獲得チャネルや顧客属性に合わせた最適な商談・提案ができる
適切な検討レベルの方に適切な情報を届けて良質な関係を築ける
こんなことが出来る人材ならいくらでも居てほしいですよね!
マーケティング文脈で言い換えると、バリュープロポジションや自社のポジショニングを設計し、大枠の戦略を作り、最適な4Pや事業計画・販売計画を作り、適切な顧客を集め、商談内容や資料を練り上げてくれる人。
最高すぎます。
マーケティングは実践学?
どうやってこの能力を鍛えるのか?それは設計から担当して実践することだと私は考えます。
アカデミック VS 現場たたき上げ の構図はよく界隈でも議論になりますが、元となるアカデミックな知識は絶対に必要ですし、多い方がいいです。
しかし、野球の本をいくら読んでも野球がうまくならないのと同じで、
「実際に自分の頭で考えて、実行」してみないとマーケ力もマネジメント力も思ったほど向上しないです。
特にBtoBだと状況も課題も業界の商習慣も各社様々なので、他の会社の正解が自社の正解とは限りません。大枠で抑えておくべき要素は抑えつつ、自社の正解をトライ&エラーで見つけていく戦いです。
かつ、営業の商談現場に必要なスキルと、商品コンセプトを練り上げるスキルや戦術設計スキルは似て非なるものです。つまり狙って特定のスキルや経験値を上げに行かなければならないのです。
そこで私は、いかに自分の頭で考えた施策を実行してもらうか?に重点を置き、失敗してもリスクは最小限に抑えることのできる任せ方はないか?を試行錯誤してきました。
任せすぎても怖いですし、フォローしすぎたらマイクロマネジメントになってしまい、本来得たい「実践経験」が積めない。
どこをどのくらい任せているのか?がお互い明確になればいいのではないか?と考えて以下のようなやり方を取るようにしました。
戦略・戦術・戦闘に分けて任せるポイントを決める
私は大雑把にこの3つに分けて任せるべきポイントを変えています。
本来でいうと、「作戦」や「兵站」といったようなことも考える必要があるのですが、シンプルではなくなってしまうため、敢えて3つに分けて会話する方法に行きつきました。
ちょっとイメージがつきづらいかもしれないので、弊社の例を使って説明します。(数字は仮のものです)
【戦略】
商品コンセプト:マーケティングビギナーの方向けの安価で簡単なツール
ビジネスモデル:サブスク、フリーミアム、
販売戦略:
インバウンドマーケを中心にフリーを獲得しPLGとSLGを組み合わせ有料化、徹底的なCSで顧客成果を上げつつクロスセルアップセルを行いARPUとLTVを上げる。
組織体制:TheModel型分業に加え、PLG、SLG、業界特化のチーム編成
【戦術】
新規チャネルから必要なMQL数、SQL数、受注数を算出。
※各種広告、WEBサイト(オーガニック・広告)、展示会、イベント、メディア出稿などからそれぞれ算出する。
保有リードから必要なMQL数とSQL数、受注数を算出。
※ホワイトペーパーや記事コンテンツ、セミナー、フリーなどへ誘致
既存顧客からアップセルクロスセル数とご紹介数を算出。
例:
(数字は仮の数字です。)
毎月20件の新規受注が必要で、5人のFS担当に毎月20件合計100件の新規商談を供給する計画。
チャネル別で想定着地パワーを算出。
WEBサイトからのMQLが200件、SQL率30%で60商談、受注率が15%で9受注
保有リード向けにセミナーを月3回実施し、MQLが100件、SQL率20%で20商談、受注率が20%で4受注
etc.
目標との乖離がある場合に、どのチャネルに何を増やすかを都度調整。
【戦闘】
フリー顧客向けの導入支援資料、ご提案書、テックタッチメール
特定の展示会やセミナー参加者向けの現状ヒアリングシート
STP、事業コンセプト商品コンセプトが体現された提案の流れ作り
商談に必要となる知識、応酬話法、
特定の業界や職種の方向けの説明資料、
ニーズ潜在層・顕在層それぞれの提案資料 etc.
ざっくりこんな感じです。
戦略→戦術→戦闘はすべて繋がっているので、極論「1つの提案書」に違和感を発見したら正しく設計と実行ができていないことも判明したりします。
例えばビジネスモデルがフリーミアムで販売戦略をPLG中心にしているのに、ゴリゴリにテレアポして商談獲得する戦術を選び、ニーズ顕在層向けの資料を中心に戦闘を設計する
ってなると全てがチグハグですよね。
ここまで極端な例は少ないですが、意外と戦略戦術に沿った戦闘ができていないというケースは多いです。
結果的に受注率、解約率やLTVにも関わってくるので注意が必要です。
そしてこの戦略戦術戦闘は、それぞれ「設計」と「実行」に分かれていく形です。
それぞれの要素の難易度が全く異なるため私は以下のような順番で任せていく領域を解放していっています。
レベル1:上司の考えた戦闘を完璧に実行する(守破離の守)
レベル2:戦闘の設計・修正を上司の力を借りて行う(守破離の破)
レベル3:提案内容の設計や売り方のチューニングを1から担当(守破離の離)
レベル4:戦術面での不足を補う案を上司と考え、その施策を実行する
レベル5:戦術面での不足を補う案を自ら考え実行に移す
レベル6:一から戦術を設計する(新商材や新年度の戦術設計など)
レベル7:戦略面で変更すべき点を発見し改善する
レベル8:目的達成に最適な組織やビジネスモデルを構築する
レベル9:世の中(顧客)に求められる商品コンセプトを作る
ざっくりこんなイメージです。
重要なのは任せる側と任される側がお互いに「どこを任せられているのか?」が明確になっていることです。
レベル2の領域を任せているつもりなのに、本人がレベル5を任せられた!と思っていたら、様々な場面で認識がズレますし、不満が募ります。失敗確率も上がります。
私は過去にこれで手痛い失敗をしましたので、任せ方と「壁打ちレベル」を変えることが本当に重要だと思っています。
成長スピードを早めるには、現在地よりも1つ上のレベルを経験してもらうのが手っ取り早いです。(本人かやりたい前提ですが)
レベル9まで育成することは非常に難しいですが、レベル3くらいまで上がってくると、「開発側に本質的な機能追加の提案」が出来たり、高単価な商談がこなせるようになったり、メンバーのプロセスマネジメントも出来るようになってきます。
短期的に求められるマーケ思考の営業マネージャーレベル
ここまで来るとSaaS企業の皆様ならピンと来ているかもしれませんが、
今回のテーマにしている短期的な目標達成に関わる商談供給量の問題は「会社として戦術の設計や実行リソース」が不足しているケースがほとんどです。
つまりレベル4、レベル5にヒットする活動を意識的に増やせば、FSのリソースで商談供給量の問題が緩和され、果ては受注率などにも影響が出てきます。
マーケ思考は強化され、自責の念が強い文化が醸成されます。
非常にポジティブな組織運営となるのです。
弊社でも実行したことがあるレベル4,5の具体例をいくつか挙げます。
(いずれもFSの人間が起案して実行した施策です)
直近の大型マーケカンファレンスにて獲得したリードのうち未接触のマーケ担当者リストに対して「無料WEBサイト診断」の企画メールを送信
新機能リリースのタイミングに合わせて、過去失注理由でタグ付けされたペンディングリストに「特別な新機能リリースメール」を案内
高単価なコンサル商材の契約数を増やすべく、「中堅企業向けの営業組織改革セミナー」を企画開催しMQLを増やす。ISで精査しコンサル商談創出
営業部長向け「展示会の効率を上げる手法をまとめたホワイトペーパー」を作成し、保有リストで展示会を実施している企業にメール配信
マーケ部門に人数が不足していると、細かいセグメントのリストに対する活動はどうしても後回しになってしまいます。
しかし営業マネージャーであれば、どんな属性の人にこういう情報をお伝えしたら興味を持ってもらえるはず!という1次情報を持っています。
であれば不足しているコンテンツや施策をやりたい!と社内調整し、マーケと協力して実施すれば良いのです。
(もちろん全体のブランディングや顧客の意に反する情報提供やコミュニケーションは諸刃の剣なので、最終の実施ジャッジやQCはマーケ側に委ねますが)
商談がこなくて身体を空けているくらいなら中長期施策のSEO用の記事を作ってもいいくらいです。
マーケ思考が強化されるだけでなく、マーケやISの人の苦しみや業務内容を理解したセールスが増えることも副次的な成果です。
マーケ不足の分業型組織にこそマーケ思考の営業マネージャーを。
最低限の人数でやっているからこそ、助け合いが必要ですし、組織間の相互理解が必要不可欠です。
もっとも不足しているマーケ要素を他の部門で補う構図は、組織全体の目標達成や一体感を作るだけでなく、結果的に強い営業組織や強い事業責任者を生み出します。
これらは「自ら考えて実践」しないことには鍛えられない能力だと思うので、ぜひ本日の内容を参考にしていただき自社のメンバーの「任せるレベル」を高めていってもらえたら幸いです。
まとめ
SaaS企業では他責問題、マーケ人材不足問題、商談の質問題が増えてきている
自責で考えて、組織全体のボトルネックを自らが動いて解消できる人材を育てることでこの問題を解消する
マーケティングレベルは自分で設計して実践しないと上がらない
戦略戦術戦闘を設計と実行に分けてレベル別に「実践」していく
どの領域をどのくらい任せているのか?がお互い明確になっていることが重要
商談供給量は戦術のレベルアップにより増やすことが出来る
最適な検討度合いの顧客を選別すべく営業が最適なコンテンツやチャネルを補填する
営業がマーケ思考を持つことで、組織間の軋轢がなくなるだけでなく、強い営業組織作りにも繋がる
以上です。
テキストにすると当たり前のことに感じますが、徹底して出来ているか?と問われると「意外と出来ていない組織」は多いです。
本日のnoteから少しでも皆様の組織で活用できる要素が見つかれば幸いです。
さてSaaSLovers、明日はリーガルテックMNTSQにお勤めの高山さんによる大企業の業務改革について記事です。
どんな内容になるのか非常に楽しみにしています!
ここまでご覧頂きありがとうございました!