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本当に「PCR検査数は多いに越したことはない」のか?

 COVID-19の感染拡大が世界規模の広がりを見せる中、日本は他国に比べてPCR検査数が少ないため「なぜ検査をしないのか」「希望者全員が検査を受けられるようにすべきだ」とテレビのコメンテーターは口を揃えて言います。しかし、本当にそうでしょうか。その答えは、PCR検査の精度の問題と合わせて考えると自ずと見えてくるはずです。ご一緒にPCR検査の問題について考えていきしょう。

PCR検査の精度について

 COVID-19は新興感染症であり、十分に信頼できるデータはまだありませんが、だいたいの目安はわかっています。日本プライマリ・ケア連合学会の診療の手引きによれば、

「PCR検査はウイルスゲノムを検出するという原理から、一般論として感度は低く、特異度が高いと考えられます。初期のPCR検査で陰性だが後日陽性となった患者等の検討により、感度は30~70%程度、特異度は99%以上と推定されています」

とあります。

感度とは、ウイルスに感染している人に検査をして、正確に陽性という結果が得られる割合です。感度が70%だとすると、感染者100人に検査して陽性が70人、陰性が30人になります。この30人は偽陰性です。原理的には微量のDNAでも増幅できるはずのPCR法でも、検体にウイルスが含まれていなければ正確な結果が出ません。正しく検体を採取できなかったり、検体を採取した場所にウイルスが排出されていなかったりすると、ウイルスに感染していても偽陰性になります。偽陰性なのに感染していないと誤解して出歩くと、他の人に感染させるかもしれません。PCR検査は感度がそれほど高くないので、検査で陰性であっても感染していないと安心はできません。

特異度は、感染していない人に検査をして、正確に陰性という結果が得られる割合です。推定では特異度99%以上と高いです。

 感度がそれほど良くない以外にも、PCR法にはいくつか欠点があります。連鎖反応を起こす過程で温めたり冷やしたりを繰り返す必要があり、結果が出るまでに時間がかかります。また、鼻もしくはのどから検体を取るときに医療従事者が感染するリスクがあります。

PCR検査を積極的に行う事のリスクについて

仮に感度を70%、特異度を99%とします。

●感度70%とはウイルス感染している人が100人いたら70人を陽性と判定する能力を意味します。
●特異度99%とはウイルス感染していない人が100人いたら99人を陰性と判定する能力を意味します。

 この検査を10万人に対して行った場合の有効性を考えるためには、COVID-19の有病率を知る必要があります。5月9日現在、日本の感染者数は15,477人とされています。約15,000人としてこれを日本人口の1.25億人で割り返すと、有病率は、15,000人÷1.25億人=0.00012・・・、なので0.012%とします。

 有病率に関しては多くの意見があり、現時点での日本の感染者数はあくまで検査を実施して陽性反応が出た人数を公表にしているに過ぎません。実際には検査を受けていない軽症・無症状患者を合わせるとこの数倍の感染者数が存在するという考えもあります。有病率の変動により検査の意味合いは変わってくる事を前提に読み進めて下さい。

では、10万人のうち0.012%がウイルス感染している時に感度70%、特異度99%の検査をした時のことを考えます。

●10万人のうち有病率0.012%と仮定すると、ウイルス感染している人は12人
●ウイルス感染していない人は、10万人- 12人=99,988人
●有病率0.012%の感染症に感度70%のウイルス検査を10万人に行った場合
12人× 70%=8人が陽性と判定
●有病率0.012%の感染症に特異度99%のウイルス検査を10万人に行った場合
99,988人× 99%=98,988人が陰性と判定

 結果的には99,988人-98,988人=1,000人が本当はウイルス感染してないのに検査結果は陽性、つまり感染していると判定されてしまいます。これが偽陽性です。また、ウイルス感染しているのに検査結果は陰性、つまり感染していないと判定される人が4人でてしまいます。これが偽陰性です。結果的に、10万人中、偽陽性の人が1,000人、偽陰性の人が4出てしまいます。

 これはつまり、10万人に網羅的にPCR検査をおこなった場合、実際は12人しか陽性患者がいないにも関わらず、1008人が陽性患者と判断され(陽性的中立1%以下)、病院が偽陽性の患者で溢れかえる医療崩壊を招きかねない非常に危険な事態となる事を意味します。ですので、個人がむやみやたらにPCR検査を行い、陽性が出たからといって病院に駆け込んでしまうと実際の感染者がまともな医療を受けられないといった事になりかねません。


PCR検査をどのように活用すべきか

 では、どのようにPCR検査を活用していくべきなのでしょうか?その答えは、網羅的に検査を行うのではなく、検査を受ける患者が実際に感染しているであろう確率(検査前確率)を上げておくことです。そうすることで偽陽性の問題は大きく改善します。最初の試算では有病率0.012%と仮定した集団に検査を行いましたが、例えばコロナに感染している確率10%の人だけに絞って検査をした場合、感度70%、特異度99%だとしても陽性的中率は約90%まで改善します。そういう意味では、厚労省の「PCR検査抑制」の方針は、陽性的中率を上げるのには有効であると考えることができます。

 しかし、報道であるような「症状が出ているにも関わらず検査を受けられないという状況」が発生しているのであれば、それは大きな問題です。私の意見はあくまでむやみやたらに検査をすべきではないという趣旨で、症状が出ているのであればしかるべき検査・処置が行われるべきだと考えています。この検査が受けられないという声がごく一部の例を拡大報道しているのか、各所で本当に起きていることなのかはあらゆる媒体を通して情報収集することで今後見極めていかなければなりません。皆さんのご意見をぜひともお聞かせください。

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