ベートーヴェン交響曲第3番とメンデルスゾーン (作品予習&生演奏の感想) | アムステルダム音楽旅
フィッシャー指揮のブルックナーに続き、コンセルトヘボウ管弦楽団のメンデルスゾーン&ベートーヴェンプログラムを鑑賞した。指揮は若き俊英クラウス・マケラ。
作品予習 | ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮ヘルベルト・ブロムシュテット、他
ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」も、ブルックナー交響曲第3番に続き、ブロムシュテット指揮のベルリンフィル2023年9月23日の演奏(デジタルコンサートホール)で予習した。
これもブロムシュテットのインタビュー動画(無料)が参考になった。ブルックナーの動画からさらに6年経ち、ブロムシュテットは96歳。話している内容に、もしかしたら少し記憶違いなどが含まれるかもしれないが、その辺の定番解説を読むよりインパクトがあり、面白いのでついつい引き込まれる。今回もまた熱唱しながら語る96歳の指揮者だった!
面白いと思った内容をいくつか抜粋する。
当時の優れた音楽家でさえ、この作品は新しすぎる、馬鹿げている、グロテスクだ、ベートーヴェンは狂っているなどと評した。現代ではノーマルで、美しい作品だと見られているのにね。
演奏するのも非常に難しかった。指揮者としても活躍した作曲家ウェーバーは、オーケストラメンバーが意見の食い違いで言い争いをしている時に「喧嘩は止めなさい!止めないと、罰としてベートーヴェンの交響曲第3番を演奏させるぞ!」と言ったとか。(うーん?本当かな。でも、それだけ演奏が難しくて、内容が新すぎて、演奏家から見ると演奏したくない作品だと思われていたということの例えとして面白いね。)
初演は小規模オーケストラで演奏された。ブロムシュテットは、コロナ禍に小規模で演奏したことがある。なかなか良かったそうだ。でも、最適なサイズは50〜60人だと彼は考えている。
第1楽章は、当時の交響曲の普通の第1楽章の2倍の長さ。
最初の主題「ドーミドーソドミソド」はベートーヴェンより半世紀前の作曲家Carl Friedrich Abel の交響曲のテーマと同じだが、ベートーヴェンはそれに続いて半音階で下がっていく音を加えて、全く異なる世界へ導いている。
(・・・とブロムシュテットは言っているが、交響曲第3番のWikipediaによるとAbelではなく、モーツァルトのジングシュピール『バスティアンとバスティエンヌ』K.50のテーマであると書かれている。
さらに、このジングシュピールの英語版Wikipediaを見ると、ベートーヴェンが、モーツァルトが若い時に作曲したこの作品を知っていたとは考えにくいとも書かれている。古典作品においてはアルペジオで演奏を始めることはよくあったので、偶然同じテーマになったのでは?とある。
また、AbelのWikipediaでは、以前はモーツァルトの交響曲と思われていた作品がAbelの交響曲であることが判明したことが書かれている。
もしかしたら、Wikipediaにはまだ反映されていない新しい発見を、ブロムシュテットは知っていたのかも。つまり、このテーマはAbelの交響曲のものであり、モーツァルトもベートーヴェンもそれを使ったということが最近になって判明したのかもしれない?あるいは、そうではなく、ブロムシュテットはこれらの内容を混同して独自のストーリーを作り上げてしまったのかもしれない?)一般的な作曲家の作品は、第1楽章が素晴らしくても、第2楽章以降がイマイチだったりするが、ベートーヴェンの第3番は違う!
第2楽章は葬送行進曲で、みんなゆっくり演奏したがるが(泣き真似をしながら葬送行進曲を熱唱するブロムシュテット氏!)、ベートーヴェンは♩=80と指定しているので、極端に遅くすべきではない。一方、ワーグナーは、ベートーヴェンの緩徐楽章は、よりゆっくり演奏した方がもっと美しくなると思っていた。
第3楽章も素晴らしい。ホルンの三重奏は狩りの音楽のようだ。
最終楽章が変奏曲というのは非常に珍しい。あまり重要とされていなかったジャンル。鑑賞者にとっては、聞き覚えのあるメロディーが何度も出てくる。変奏曲の中にはフーガが2つある。また、フルート奏者にとっては非常に難曲でもある。現代のオーケストラでは問題なく演奏できるが、当時の演奏家では難しかった。
ブロムシュテット先生のお陰で予習が捗った。インタビュー動画を見てから演奏動画を見て、それからまたインタビューを再視聴して、演奏動画を見た。
さて、プログラムではベートーヴェン交響曲第3番の前にメンデルスゾーンの短い作品を4曲演奏するのだが、よく見てみると、そのうちの1曲はフェリックスではなく、彼の姉ファニーの作品だった。
女流作曲家の作品を聴く機会は増えているが、あまり好きな作品には出会えていない。クララ・シューマンの作品には何故か惹かれない。そんな中でファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼルの作品には実は少し注目している。コロナ禍に音楽ストリーミングのIDAGIOで聴いたファニー作曲のピアノ独奏曲が良かった。印象としては、男性的な音楽だと思った。フェリックスの名で発表された作品のいくつかは、ファニーが作曲したというのは十分あり得る。
今回演奏されるファニーの作品はオーケストラとソプラノ歌手の歌曲「ヘーローとレアンドロス」。
うわー!さすが天才女性ファニー・メンデルスゾーン!
古典オペラのように始まるが、盛り上がる後半以降はまるでワーグナー作品の女戦士が歌うような激しさではないか。文句無しでカッコいい。ギリシャ神話に登場する女の神官ヘーローが、愛する美青年レアンドロスを溺死で失い、狂ったように歌う!
今、知ったのだが、作詞はヴィルヘルム・ヘンゼル。ファニーの夫である。画家だと思っていたのだが、文筆や詩でも活躍していたそうだ。
この作品をご存じだろうか?知らないなら聴いてみたいのでは?
下の動画が、私が予習として聴いたJewish Chamber Orchestra Munichが演奏するファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル「ヘーローとレアンドロス」。CCでテキスト(ドイツ語)を表示できるので、必要に応じて自動翻訳も可能。
弟フェリックス・メンデルスゾーンの曲は「フィンガルの洞窟」と「夏の夜の夢」から「スケルツォ」が演奏される。それぞれどこかで聴いたことあるような作品。「フィンガルの洞窟」の暗さは好き。
フェリックスの曲がもう1曲ある。完全に初鑑賞となるアリア「In Felice」は、メンデルスゾーンっぽくないような気がする・・・え?なぜイタリア語?テキストはあの有名なオペラ台本家ピエトロ・メタスタージオ(1698-1782)。なるほど、イタリアのバロックオペラの雰囲気。オーケストラ、ヴァイオリン独奏、ソプラノ歌手という珍しい組み合わせで演奏される。
メンデルスゾーン姉弟の作品4つは、上手い選曲だと思った。これらの作品を知る機会を提供していただき有難い。今回のアムステルダム音楽旅のメインイベントはメンデルスゾーンの「エリヤ」なので、メンデルスゾーン作品は大歓迎。
生演奏 | ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、指揮クラウス・マケラ
2023年12月21日
Het Concertgebouw
Concertgebouworkest
Klaus Mäkelä, conductor
Chen Reiss, soprano
Felix Mendelssohn
Overture ‘Die Hebriden’, op. 26
Fanny Mendelssohn
Hero und Leander, H. 262
Felix Mendelssohn
Scherzo (Allegro vivace) (from A Midsummer Night’s Dream, op. 21 en 61)
Felix Mendelssohn
Aria ‘Infelice’
Beethoven
Symphony No. 3 in E-flat major, op. 55 ‘Eroica’
ガーン・・・
私は完全に座席の選択を誤った。
上の写真は私の席から撮った。コンセルトヘボウには左右の壁に沿って「列番号0」がある。人の出入りのたびに立たなければいけない普通の長い列より便利そうだから、つい選んでしまうのだが、音響は劣悪だった。オンラインの座席表では分からなかったが、ご覧の通り、頭上には「屋根」がある。前から2列目のど真ん中で鑑賞したブルックナーの迫力とは程遠い、残念な鑑賞だった。とほほ。
ブルックナーの記事で書いたが、コンセルトヘボウの音響は素晴らしい。
ただし、席の位置による。
クラウス・マケラの指揮は、動きは激しかったのだが、音は柔らかいと感じた(音響の悪い席で鑑賞したからそう感じたのかもしれない。)
第1楽章の直後に拍手が起こった。
交響曲3番のみのクリスマス特別コンサート(下の画像はそのポスター)もあったが、私が鑑賞したのは前半にメンデルスゾーンを入れた通常の定期公演としての演奏なので、それなりにクラシック音楽をよく聴く人が来ていたと思われる。きっと熱い感動的な演奏だったから演奏途中で拍手となったのだろう。この座席からはあまり分からなかったのだが・・・
ああ、座席、とほほ。
いや、それだけでなく、夜20時15分開演というアムステルダム的な音楽時間に慣れず、昼のデン・ハーグ日帰りで疲れてしまったせいでもある。とほほ。
フィンランド出身のクラウス・マケラは27歳。現在活躍する指揮者の中では圧倒的に若い。コンセルトヘボウのホール正面の「バッハ」の扉からトコトコ降りてくるスピードが速い(笑)
【オマケ】
余談だが、アムステルダムのクリスマスマーケットは残念なマーケットだった。ドイツの隣国だからといって、ドイツのクリスマスマーケットをイメージしてはならない。事前に調べたので、それは十分知っていたのだが、想像以上にガッカリだった。
10分で見物完了。小規模で、食べ物や飲み物も少ししかない。マグカップに入ったグリューワインを片手に1〜2時間だらだら楽しむドイツのクリスマスマーケットが恋しい。
せめてグリューワイン(紙コップ)1杯ぐらい飲もうと思ったのだが、支払いはオランダの銀行のデビットカードのみだった。現金はアムステルダム市内ほとんど使用不可だが、クレジットカードさえも不可のところがあるとは。。余所者はグリューワイン禁止か!ひどい。。
別にいいさ!
コンセルトヘボウの開場待ちの時に、無料でグリューワインをいただいたから!
コンセルトヘボウ、ありがとう!!大好き!!
(ブルックナーの時はこのサービスに気づかなかった。。)
冬のコンサートホールでこんなサービスがあったら嬉しいよね!!
(国内外のコンサートホールにぜひ実施していただきたい!!)
音楽旅2022年12月
フランクフルト&ストラスブールも
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