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その17:万年筆の機械化

日本が世界に誇る万年筆メーカーのひとつ、セーラー万年筆にはロボット機器事業部がある。
この部署は、万年筆やボールペン等のプラスチック形成部品を生産する工程を改善すべく立ち上げられ、そこから組立装置や検査装置を経て、筆記具を超えて医療用具、食品容器等の工程機の設計と製造までも行っている。
あくまで生産工程の機械化である。決して万年筆のロボット化を図る訳ではないのだが、今やアナログ製品でもある万年筆がロボット化されたり、メカニックな構造を果たす未来も面白いことだろう。
機械式筆記具といえば、SHARP創業者である早川徳次が発明し、かの宮沢賢治も使用した「早川式繰出鉛筆」こと、シャープペンシルが思い当たる。この一般的な英語名は、メカニカルペンシルだ。
今日まで時代は進んで来て、万年筆も何処まで変わって来れたことか。キャップレスや軽量化がせいぜいか、はたまたパーカー 5th のようなテクノロジーか。そんな中、機械仕掛けの万年筆があることを知った。
二〇一六年の秋に発売されたスイスの高級時計ブランドRichard Mille(リシャールミル)の万年筆で、時計職人が四年の歳月をかけて開発したRMS 05 Le Stylo Plume RMS 05 機械式万年筆。

尻軸には置き時計に搭載されているリコイル型脱進機を搭載し、そのゼンマイの機械がスケルトンで見えている。

最高部のボタンを押すとペン先が出て来るという仕掛けで、ゼンマイはキャップを閉める事で巻き上げられ、自動的にペン先も収納される。尚、ボタンを押してペン先が出るまでに要する時間は10秒。機械の動く様を眺める10秒は最初のうちなら楽しいだろうが、やがて馴れるとヤキモキしそうだ。
この万年筆の機能、機械化ではこれが限度ではないだろうか。正直、蛇足な機能だとも思う。ペン先の出る出ないはキャップレスでこそ意味を成すが、これはキャップがあるもので、仕掛けからすれば機能有りきで生まれた万年筆である。これはもう、それを愉しむ贅沢というところだろう。
軸はカーボンとチタン製、ペン先は18Kホワイトゴールドを採用。ゼンマイ部分にはサファイアクリスタルガラスが輝いている。なかなか普段使いに向かないのは、仕掛け以上にもうひとつ。この万年筆、お値段が一千三百万円するという。
インクはカートリッジ式のようだが、仕様が細かく大量生産品ではない。時計職人の技術の粋が集まった特別な逸品故、とんでもない価格となっている。一体どんな人が購入したのだろうか。
ちなみに、この万年筆が世界で最も高価な万年筆でもない。
世界で最も高価な万年筆は、モンブラン ハイアーティストリー 万里の長城 リミテッドエディション1 「インペリアル」とされている。これは多様な宝石が散りばめられたもので、日本円にすると約2億4700万円(時価195万ユーロ)。上には上にはがあるものだ。

モンブラン ハイアーティストリー 万里の長城 リミテッドエディション1 「インペリアル」
※こちらの尻軸には、中国の宮廷音楽を象徴する伝統楽器へのオマージュとして、ミニオルゴールがセットされている。

機械式とは言っても、万年筆のロボット化にはまだまだ未来は遠いのか。常に未来は前へ前へと進むものだが、果たして万年筆に進化は必要なのだろうか。
コーヒー豆を挽いてサイフォンでゆっくり抽出するような、レコードをプレーヤーに乗せて針を落とすような、時間を楽しむもののままであっても好いと思う。
万年筆の進化形、それはボールペンのことで十分なのではないかと思ってみたりする。



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