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D&D第5版は、日本市場のカリスマを待っている

あと一押し

2022年12月にウィザーズ日本支部直々による『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の日本展開が開始し、1年と4ヶ月が経過しました。

2023年の映画『アウトローたちの誇り』とコンピューターゲーム『バルダーズ・ゲート3』という相次ぐメディア展開は、「セクシーパラディン」のTwitter.comトレンド入りは、当のパラディンの演者本人に認知される程になり、こういった出来事も相まって、確かにD&Dの知名度を向上させています。

また、大手専門店「イエローサブマリン」の週刊販売ランキングには新作が出る度に売上TOP10入りを果たしています。

しかし、TRPGとしては、「まだもう一押し足りない」―最大手の『クトゥルフ神話TRPG』はおろか、『ダブルクロス』『シノビガミ』『ソード・ワールド』―そういった二番手達ともまだ肩を並べられないように感じるのです。

プレイ層が違うと言われればその通りですが、まだ何かがくすぶっている―そう感じるのです。

「コルバート上昇」

物の人気という物は段階を踏んで成長すると、私は考えています。
特定のコンテンツを好きな人の人数をグラフ化したものを想像するなら、それは決してなだらかな直線や曲線を描くのではなく、ところどころに階段状の、大きな上昇や下降があるということです。

『グレイナーの5段階企業成長モデル』に代表されるように、企業の成長は段階的なものとされていますが、企業の金銭的な成長は、認知度や利用したいという信頼から生まれる以上、「人気」とも近しい所があります。

段階的な人気の実例として、アメリカでは特定の影響力のある人物による「上昇」を、こういった現象を頻繁に引き起こしたテレビ番組のパーソナリティから「コルバート上昇」(Colbert Bump)と、

また、ソシャゲなどの世界でもこの「上昇」のタイミングで増えたプレイヤーを「○○勢」などと呼びます。

ブルーアーカイブWiki(https://bluearchive.wikiru.jp/) 俗語集のページより。

80~90年代のベーシック(赤箱)やアドバンスドD&D第1版時代、そして歴史的影響による知名度も含め、D&Dを取り巻くニッチは着実に拡大しているのは先述の通りです。

現在の日本におけるD&Dは、次なる「上昇」を待っている状態と言えるでしょう。
そして、2023年の下地がある以上、次はTRPG界隈においても大きなものになると、私は考えています。

次の「上昇」

公式の動向

これだけの積み重ねがあれば、単純に公式に大きな動きがあるだけでも次に繋がることでしょう。

『モンスターハンターポータブル2nd』および『モンスターハンターポータブル2ndG』は日本国内で社会現象を起こし、『モンスターハンター』シリーズの人気を盤石なものにしましたが、それは今までに発売されたシリーズで培われてきた人気があってこそのものです。

D&D第5版においても、まさに『MHP2』と『MHP2G』の関係のような変化が訪れようとしています。
英語環境では今年の9月から翌年初頭にかけて、基本ルールブック3冊(プレイヤーズ・ハンドブック、ダンジョンマスターズ・ガイド、モンスター・マニュアル)の改訂版の発売が予定されており、ほぼ同時、もしくは後を追う形で日本でも発売される事になるでしょう。

新基本ルールは過去の第5版コンテンツとの互換性も担保された設計で、新しいルールでありながら資産が全くない訳ではなく、新ルール発売という話題性も相まってよい初めどきになると思われます。

コミュニティの動向

しかし、直近の日本支部のプロモーションは的外れな物が多く、広報にあまりリソースを割けていないように感じます。

それでは、コミュニティはどうでしょうか?
コミュニティからは、影響力のある人物がわかりやすくD&Dを紹介することで、新たな「上昇」が生まれると、私は考えています。

直近の類例として、『The k4sen』があります。

eスポーツの人気競技の一角として知られる『リーグ・オブ・レジェンド』(以下LoL)。その未経験者や初心者である大手配信者たちを集めてチームに分け、ベテランである主催者のk4sen氏らがそれぞれ各チームをコーチング、3夜連続で配信し、その最終日には正式な大会を行うというものです。

2024年2月5日~7日分の参加者一覧。

開会式とも言うべきk4sen氏の初心者の目線に強く寄り添った初心者講座も含め、日本でもeスポーツの隆盛に伴いニッチを形成し始めていたLoLの人口を大幅に増加させました(MOBA他作品の経験こそありましたが、かく言う私もその一人です)。

The k4senが成功した要因として、いくつかの要素考えられます。

距離感の近さ
距離感の近さから生まれる和気あいあいとした雰囲気は、とっつきやすさを与えます。
これはアメリカで第二次D&Dブームの火付け役となったネット配信シリーズ『Critical Role』とも共通する要素です。
Critical Roleの出演者たちは配信開始以前から仲間内でTRPGを遊んでおり、この距離感の近さは、後追いの競合配信が多数出現した欧米圏のTRPG配信においても、大きな個性となっています。

Critical Role キャンペーン3 第3話より。全員で盛り上がる

初心者プレイヤー
The k4senでは、プレイヤー達はほぼ無知の状態から、k4sen氏やうるか氏からわかりにくい点を逐一学びながら進めていきます。その過程の中で、視聴者も学びながらゲームのルールや定石、魅力を知ることができます。
初動から完成度の高いパフォーマンスを求められる欧米圏や韓国などと異なり、親近感は日本特有のセールスポイントと言えます。

D&Dも、現在は名前を知られる事は増えても、内容を知らないという、LoLと類似した状況にあります。映画アウトローたちの誇りはゲーム上のルールに関する言及はなく、バルダーズ・ゲート3は逆にD&D第5版のルールを知らなければ十全に遊ぶことができないにも関わらず、ゲーム内のチュートリアルは完全な初心者目線では不十分でした。

しかし、The k4senのような極めて広く届く配信の中で、最低でもスターターセット収録の『竜たちの島ストームレック』を終える程度のプレイ時間を通して、そこで巻き起こる物語やレベルアップといった要素を見せることができれば、これまで公式に開かれた数十分の体験会では伝わらなかったD&Dの魅力が伝わると私は考えています。

TRPGはグループで遊ぶゲームであり、ゲームマスターという主催者が存在します。経験者がGMとなり、初心者をプレイヤーに招く、The k4senのような構図はTRPGそのものに織り込まれているのです。つまり、このような配信が出現する可能性は極めて高いと考えられます。

未来は明るい

そもそも、ホビージャパン時代に比べれば、D&Dを取り巻く環境は格段に改善していると言えます。
その時点で素直に喜べばいいという話ではあるのですが、同時にホビージャパンからウィザーズ日本支部への移行期に「移行する」という情報もないまま待たされ、日本展開が断絶するのではないかと心配していたあの頃があったからこそ、私自身今後を予想して安心したいと、必死になっているのでしょう。

一度はどん底を見た上に、昔以上の成長を見たのなら、もっと上を見たいのは道理でしょう。ドラゴンが古き者<グレート・オールド・ワン>を脅かす、その日まで。

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