【腰痛のケース】運動病理学的モデルの実践応用
このブログは、MSI(Movement System Impairment)について解説することを目的としています。
MSIについては、こちらをご覧ください。
MSIでは、身体の動きがきっかけで生じた痛みの原因を解明し、改善するプロセスを学ぶことができます。
はじめに
前回のテーマは、”MSIの超重要テーマである運動病理学的モデルの図について”でした。
今回は、実際の症例を運動病理学的モデルに基づいて解釈してみたいと思います。
運動病理学的モデルの図を実践応用することで、より運動のエラーが痛みにつながるメカニズムを理解しやすくなります。
腰痛の症例
私が実際に臨床の現場で担当した腰痛の方をベースに考えていきます。
個人情報保護のために少し脚色があることはご容赦ください。
また、評価結果も簡略化してあります。
症例情報
- 年齢・性別:60歳代 男性
- 主訴:長時間歩くと腰が痛い
- 診断名:腰部脊柱管狭窄症
- 現病歴:元々腰痛があったが寛解・増悪を繰り返していた。最近長時間立位・歩行で右腰部〜殿部痛あり。座って休むとまた歩ける。
- 仕事:営業(歩くこと多い)
- 体型:やや肥満体型、腹部が大きい
- 痛みの部位:右L4/5多裂筋周囲 ピンポイントでない、歩きすぎたりすると右大腿後面が痛くなる
MSI下肢の系統的検査に基づいた評価
- 立位姿勢:スウェイバック、リブフレアあり、骨盤左回旋位
- 前屈からの戻り:腰椎伸展優位
- 立位右回旋動作:骨盤右回旋が不足し腰椎伸展回旋が増加し痛みあり
- 右片足立位:骨盤左回旋増加し骨盤右側方Swayと対側骨盤下制が生じる
- 股関節屈筋の筋長検査:両大腿筋膜張筋(以下、TFL)の硬さあり(右>左)
-(自動)ストレートレッグレイズ:挙上側股関節は軽度内旋位でTFL優位
-膝関節伸展位での股関節伸展:大殿筋の収縮不良でハムストリングス過剰収縮(右>左)
-大殿筋の筋パフォーマンス:右MMT3以下 左MMT3
-歩行:右立脚時に骨盤右前側方Swayし対側骨盤下制生じる
分類名と関与因子
こららの評価結果を解釈すると以下のようになります。
MSIでは運動病理学的モデルに基づいた結果を、分類名という形で表現します。
また、分類名に関わる要素を関与因子と表現します。
分類名:
- 腰椎伸展回旋症候群
関与因子:
- 外腹斜筋延長弱化
- TFL過剰活動(右>左)
- 腸腰筋延長弱化(右>左)
- ハムストリングス過剰活動(右>左)
- 大殿筋機能不全(右>左)
運動病理学的モデルの図に基づいた痛みの解釈
反復運動:歩行時の腰椎伸展右回旋が繰り返されていることが推察されます。
持続的アライメント:立位姿勢における腰椎の伸展右回旋位が長時間続いていると考えられます。
個人特性:腹部が大きいと骨盤が前方偏位し、下部腰椎の伸展が生じやすくなります。
活動レベル:営業で歩くことが多いこともストレスを増加させている因子になります。
筋結合組織の相対的硬さ:下部腹筋群に対して大腿直筋・大腿筋膜張筋が硬いアンバランスが生じています。
関節間の相対的柔軟性:股関節と比較して腰椎が伸展海鮮方向に動きやす過ぎる状態になっています
運動学習:股関節伸展時に大臀筋よりもハムストリングス優位のパターンが学習されてしまっています。
これらの影響で腰椎が伸展・右回旋方向に動きやす過ぎる状態になっていると解釈できます。
まとめ
今回は、前回紹介した運動病理学的モデルの図の理解を深めるために腰痛症例のケーススタディを行いました。
運動病理学的モデルの理論は、動きの原因を理解するのに非常に有用な考え方です。
実際の症例に当てはめて考えることで、より理論を実践に落とし込むことができます。
是非担当された症例の方の解釈を、このモデルに当てはめて考えてみてください。
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