記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

短編映画「冬の蝶」

あらすじ

 公式サイトによる紹介はつぎのとおり。

 人里離れた山奥の集落で育ったサチは、実家を離れて都会で一人暮らしをしていた。
 ある朝、認知症の祖母から電話がかかってくる。
「おばあちゃん、さっきね、蝶々をつかまえてきたの。今ね、手の中に隠してるの。今度、サッちゃんと会う時に見せてあげるわね。」

 しばらくして今度は母からさっきまで電話で話していた祖母が危篤であるという連絡が入り、サチは信じられないまま実家へと向かう。
冬の山々。生まれ育った実家。眠ったままの祖母。幼い頃、兄と見つけた不思議な蝶の思い出。
 実家に到着したサチは兄から”あの時の蝶”を今朝見つけたと知らされる。
サチは自分の記憶とともに、故郷を巡り始める。

https://winters-butterfly.com/

感想

 20分ほどのショートフィルムである。監督・脚本を担当した遠山 昇司氏は
1984年、熊本県八代市生まれ。映画が公開されたのは熊本地震が発生した2016年のことであり、もしかすると地震が契機となって生命の尊厳を本作で描いたのかも知れない。
 サチの実家は熊本の山里で、祖母と母に兄の3人が暮らしている。ストーリーとしてはサチが祖母の見舞いに実家に戻り、また都会に帰っていくという単純なものだが山里の美しい映像が、本来は自然こそが生命のゆりかごであることを思い出させる。
 炭焼きをしている兄はサキが帰ってきた日の朝、二人の思い出の蝶の死骸を畑で見つける。サキは眠っている祖母の枕もとを見舞った後で、峡谷にかかる吊り橋を兄と一緒に渡る。そこに、母から祖母が目を覚ましたと連絡が入る。
 祖母はかなり認知症が進んでいるが、サチに渡したかったと言って、蝶を大事に両の手のひらに収めてサチに渡す。その手の中は空だがサチは大事そうに祖母から手わたしで、その心を受け取る。
 サチは兄からガラス瓶に入れられた蝶の死骸を受け取り、帰路を自動車で帰る。道の途中で、他の自動車に轢かれたのか鹿が道に横たわっていた。その骸をサチは引きずって道路の脇に移動させて、映画は終わる。
 蝶と鹿の死骸、彼岸と此岸を隔てる峡谷と、それを結ぶ吊り橋。眠っていたはずの祖母からかかってきたサチを待ちわびる電話。それらの象徴および熊本の秘境と言われる五家荘の風光による言語を超えた表現で生と死の厳粛を淡々と描いている。

【映画情報】
公開 2016年
監督  遠山昇司
出演    Una, 五十嵐靖晃, 岩崎幸代
第33回テヘラン国際短編映画祭 アジア・コンペティション部門 グランプリ受賞
第68回モンテカティーニ国際短編映画祭 インターナショナル・コンペティション部門 スペシャルメンション受賞

いいなと思ったら応援しよう!