没後20年佐藤多持展~心と線の宇宙~(たましん美術館/立川)を観てきた
墨による抽象絵画《水芭蕉曼荼羅》を描いた佐藤多持(タモツ)は1919年に国分寺市で生まれ、生家は観音寺(真言宗豊山派)だそうである。本名は「保」だが、お寺の生まれらしく多聞天と持国天にちなんで多持と号した。
現在の東京藝術大学で日本画を学び、初めは風景画から画業をスタートしたが、戦後まもない頃に尾瀬で見た水芭蕉からインスピレーションを得て、以来、水芭蕉をモチーフとした作品を半世紀にわたり制作したことで知られる。
その作品は、水芭蕉の具象画から半球形や垂直線、水平線のパターンによる形象的表現を経て、60年代から大胆な墨線の円弧を用いた抽象的でリズム感のある“水芭蕉曼陀羅”という抽象表現に至った。
現在、立川市の"たましん美術館"で開催中の表題・企画展では、その水芭蕉曼荼羅において「心象」の表現に到達したと評している。日本画において、このような抽象画および抽象に託して心象を表現した作品は珍しいのではなかろうか。美術館で観た水芭蕉曼荼羅は流麗な音楽のようにも見えた。
その傍ら、風景画の制作も行い墨彩だけではなくキャンバスに油彩という形でも自然の美を追求した。日本画または洋画という方法にこだわらず日本の絵画としての美を追求したのだとされる。80歳を過ぎて描いた風景画「奥多摩の渓流」が印象的だった。2004年85歳で没。