なぜ経営者(エグゼクティブ)は失敗するのか、そしてそれをどう防ぐか
なぜ、経営者(エグゼクティブ)が多く失敗するのか、不思議に思ったことはありませんか?
DDIのLeadership Transitions Report 2021によると、人事部は社外から採用したエグゼクティブの約半数がその役割を適切に果たせなかったと見なしています。社内昇進のエグゼクティブについては、成果が少し良好になっているものの、まだ3分の1以上が役割を果たせていないという現状があります。
これは不思議な統計データと言えます。ほとんどの人が、自分の仕事に精通し、自身のキャリアに深い関心を持っていることから、これほど高いレベルに到達するのです。にもかかわらず、なぜこれほど多くの人が失敗するのでしょうか? 一体舞台裏で何が起きているのでしょう。
もっと深刻な問題としては、こうした失敗が組織にどれだけの損害を与えるか、そして特に重要な役割を担う人々が会社を誤った方向に導いていないかという点が挙げられます。
1.エグゼクティブが直面するプレッシャーを理解する
すべてのエグゼクティブは、強いリーダーシップのプレッシャーに直面しています。
このようなプレッシャーは常に存在しますが、特定の時期や分野では、それがより深刻化する傾向があります。
しかし、それよりも重要なのは、経営者(エグゼクティブ)がこれらのプレッシャーにどのように対処するかという点です。なぜなら、実力も実績もあるリーダーが同じような困難に次々と直面しているからです。このようなプレッシャーへの対処法は、個々の傾向やスキルの強弱により異なることを覚えておくべきです。
2.優秀な経営者(エグゼクティブ)が失敗する5つの理由
このようなプレッシャーの中、私たちエグゼクティブ・コーチは、優秀なエグゼクティブがなぜ失敗するのか、いくつかの共通パターンを見てきました。
①より大きな、より戦略的な役割に伴う曖昧さに対処する方法を知らない。
シニアリーダーの多くは、業務上の役割に秀でているために昇進します。彼らは勤勉で、良心的で、時間通りに物事を成し遂げることができます。また、チームを率いながらも、日々の意思決定や戦術に没頭し、実行の渦中に身を置くことに喜びを感じています。
しかし、エグゼクティブレベルでは、これまでの成功をもたらしたスキルが逆に失敗につながることもあります。
新任のエグゼクティブが曖昧さの中でリーダーシップを発揮するには、どのようなアプローチが必要でしょうか。それは、チームや関連ステークホルダーを刺激し、不確実性や複雑性に対処する支援を提供することから始まるかもしれません。
曖昧な環境は、新しいアイデアや新鮮な視点、成長の契機を生み出す可能性があります。優れたリーダーは、曖昧な状況や環境を、困難な決断を下すという機会と捉え、それを活用します。
このような行動には、不確実な決定を下す際に自身の間違いを認めるリスクを受け入れること、成功が保証されていない時に新しいアプローチを試すこと、新しい事業やコンセプトが必要とされる前に予測することなどが含まれます。
②全体像の把握に時間をかけず、マイクロマネジメントに時間をかけすぎている。
経営者(エグゼクティブ)として成功するためには、日常業務の管理から離れ、直属の部下であるオペレーションリーダーに日々の業務を任せ、自分は一歩下がってビジネスの全体像、より戦略的な姿を見ることが大切です。
経営者(エグゼクティブ)が、以前のような日常的な業務に引き戻されると、2つの問題に直面します。
有能な戦略的リーダーは、必要な時間をかけて、望む未来像を頭の中に鮮明に描き出すことができます。そして、これが非常に重要な点ですが、彼らはその未来像を明確な言葉で表現し、他人を魅了し、同様にその未来をイメージできるようにする能力を持っています。
また、有能な戦略的リーダーは、ビジョン達成のためのロードマップと推進力を形成し、他者との協力関係を構築して、その達成をサポートする能力を持っています。
③広範なネットワーク内のステークホルダーに影響を与える能力に欠けている。
新任のエグゼクティブの多くは、優れた技術スキルと専門知識を持ち武器に出世してきました。しかし、エグゼクティブの立場になると、技術力だけでは、同僚のエグゼクティブを仕事の必要性について納得させることは難しく、さらには彼らの支持を獲得し、コミットメントを確保する必要性に直面します。
新任のエグゼクティブは、聴衆の心をつかむ方法で自身のアイデアをパッケージ化し、意思決定や計画に向けて周囲に影響を与えることを学ぶことが求められます。そのためには、以下の手法が有効と言えます。
④内省が足りず、自信過剰になっている。
チームを奮い立たせるためには、自信は不可欠です。しかし、多くのエグゼクティブは、自分自身の長所と短所を正確に理解していません。特に、エグゼクティブ・リーダーシップ・アセスメントを受けたことがない場合、これは尚更です。その結果、不適切な場面で自信過剰になることがあります。
自信過剰は、時折傲慢さと受け取られることがあります。傲慢な経営者(エグゼクティブ)はチームに対して「口先だけ」で、彼らのアイデアを無視することになります(自分が組織の他の誰よりも賢いと本気で思っているため)。これは、リーダーが有効であるために必要な貴重な人間関係を損なう可能性があります。
傲慢な経営者(エグゼクティブ)は、自分の成功はすぐに祝いますが、チームが成功したときの賞賛や評価を共有することを忘れてしまうことがあります。その結果、チームから反感を持たれ、自分を支持する意欲も失われることが多いです。
さらに悪いことに、彼らはしばしば、自己認識や内省を欠いており、自分がそうしていることに気づくことがありません。自分の行動は適切な自信として見えるのです。エグゼクティブ・フィードバック・プロセスがなければ、他人が自分をどう見ているかを把握することができません。
ある経営者(エグゼクティブ)は次のように述べています。「好むと好まざるとにかかわらず、あなたの個性は公になるのです。問題は、それがどのような影響を与え、それに対して何をすべきかということです」。
⑤彼らは、これまでにないスピードで変化に対処している。
このようなプレッシャーの中で、変化は、かつてないほどの速さで進行しています。多くのエグゼクティブは、安定し始めるとすぐに、状況が変わってしまうと感じています。
経営幹部に昇進する前のビジネスリーダーの多くは、変化の影響を完全には受けないように保護されていました。彼らの上には常に、変化の最前線に立ち、それに対応し、その変化を乗り越えるための戦略を立てる人がいました。
しかし、新任のエグゼクティブにとって、絶えず変わる状況がもたらす混乱の中で、自分自身と社員、そして組織を導くスキルは非常に重要なものとなります。新任のエグゼクティブには、適応力、集中力を維持する力、ストレスを管理する力、そして確定的な情報がないにもかかわらず、断固とした行動を取る能力が求められます。変化を効果的に管理する経営者(エグゼクティブ)は、状況がまだ不確定な時であっても、組織の他のメンバーが自由に活動できるような安定した環境を作り出します。
3.エグゼクティブの失敗の兆候を認識する
これらの背後にある事情を理解した上で、これらのプレッシャーがどのように業務に反映されるかを認識することが重要です。このような落とし穴を早期に発見すれば、エグゼクティブが深く陥って修正が困難となることを防ぐことができます。更に、エグゼクティブがつまずくことを未然に防ぐことも可能となります。
私たちのチームは、長年にわたるエグゼクティブ・コーチングの経験、特にエグゼクティブ・トランジション・コーチング・プログラムから得られた経験を通じて、多くの落とし穴を把握しています。ここでは、最も一般的な落とし穴をいくつかご紹介します。
4.落とし穴1: 焦点が定まらない
どういうものか:30人を管理していたものが200人に増えると、その規模は非常に大きくなります。突然、多くの人々が時間、注意、資源を要求するようになります。良好な人間関係を築き、早期に成功を収めたいと願う典型的な経営者(エグゼクティブ)は、多くの事に「イエス」と答えます。しかし、優先順位が高すぎると、集中力が欠けてしまうことになります。エグゼクティブとそのチームは、すべてを前進させようと努力する一方で、大きな前進を遂げることができません。
見分ける方:通常、非常に忙しい部署が見られ、場合によっては過負荷や疲労が生じていることもあります。その一方で、重要な優先課題についてはほとんど進展がありません。締め切りに遅れ、プロジェクトを放棄し、頻繁に失敗しています。
原因:多くの場合、その原因は良い意図の積み重ねにあります。エグゼクティブは、革新に向けた熱意とアイデアに溢れて職務を開始します。しかし、適切なフィルタリングと優先順位付けを行わないと、進展は難しいです。また、細部にこだわりすぎることもあります。これが優柔不断と相まって(新任のエグゼクティブによく見られる)、致命的な組み合わせとなりえます。
対処方法:まず、この状況が生じていることを認識しましょう。サポートやコーチングがなければ、多くの人はこの点を見過ごします。次に、エグゼクティブは、価値と影響力をもたらすものに基づいて、優先順位をつける必要があります。これは当たり前のように思えるかもしれませんが、私たちのエグゼクティブ・コーチングの経験から、優先順位が大きく変更され、エグゼクティブが最も重要だと考えるものが変わることが何度もあります。エグゼクティブは、変革の取り組みを戦略的影響に基づく優先順位に分解することで大きな価値を見出すのです。パートナーやコーチと一緒にこれを行うことで、より有意義な前進をより早く達成する方法について、思考を解き放つことができます。
5.落とし穴2: ネットワークの分離
どういうものか:経営者(エグゼクティブ)が失敗する最も一般的な理由の1つは、人脈の構築と維持に苦労していることです。それは人付き合いが苦手というわけではありません。むしろ、単独で行動することに慣れてしまっているのです。しかし、エグゼクティブは、自分の仕事が他の集団にどのような影響を与えるかについて、より広く、積極的に考えなければなりません。このような落とし穴は、リモートワークを導入する企業が増えるにつれて、特に多く見られるようになりました。
見分け方:グループ間のミスアライメントやコンフリクトが見られるようになります。同様に、幹部は、予想外のステークホルダーの抵抗や、自分のチームのプロジェクトに対する支持の低下を目の当たりにすることになります。最も厄介な副作用は、緊密に連携しているはずの自分たちのチームから非常に好意的な反応を得ることがある一方で、他のグループに対する評価が低くなり、会社全体の変革に消極的になる可能性があります。
原因:その大きな原因の一つが、機能的な偏見です。エグゼクティブは、自分が得意とする分野に集中し、自分のコンフォートゾーンの外にある事柄を無視しがちです。また、控えめな性格の人や内向的な人は、必要なところに人脈を作るのをためらうかもしれません。
対処方法:エグゼクティブは、ビジネスにおける他のグループの目標や成功の指標に積極的に関与するようにすることが重要です。また、コミュニケーションにおいて、より包括的であることに注意を払う必要があります。計画やアイデアを同僚に提案し、彼らの懸念を聞き、支持を得た上で前進させることを検討すべきです。
6.落とし穴 3: コーチングをしない
どういうものか: リーダー層は、自分の専門分野の技術的な事柄について、チームを指導することが多いものです。しかし、エグゼクティブレベルになると、人材についてより幅広く考える必要があります。「コーチングの欠如」とは、エグゼクティブがチームのスキルをコーチングし、開発し、成長させる機会を軽視したり、見逃したりすることを指します。
見分け方: 離職率が高いチーム、特に高いパフォーマンスを発揮していた人が突然いなくなった場合、コーチングの欠如が起こっている可能性があります。また、残っているメンバーの中に、平凡なパフォーマンスの人の割合が高いこともあります。さらに、エンゲージメントのスコアが低く、部門全体のパフォーマンスが低下している可能性もあります。
原因:この落とし穴は、さまざまな理由で発生します。多くの場合、経営幹部は「沈むか泳ぐか」という考え方をしており、コーチングが必要不可欠なリーダーシップの活動であると認識していないのかもしれません。また、自信に欠けて優秀な部下に脅威を感じている場合もあります。他には、自分の仕事に固執しすぎて、部下の可能性を見いだせないこともあります。いずれにせよ、その結果、チームは停滞します。チームは成長せず、ビジネスの進化に対応できません。
対処方法:最高のリーダーは、小規模で戦術的なコーチングから一歩進んで、チームの幅広い能力を開発することを考えます。つまり、チームメンバーの責任を拡大する機会を常に模索し、新しいスキルを習得させ、より大きなビジネス貢献をするような職務に引き上げるのです。最終的には、その場凌ぎのコーチングではなく、組織の才能を伸ばすための責任を果たすことが重要になります。
7.経営者(エグゼクティブ)が失敗する一番の原因とは
私たちの研究と経験から、エグゼクティブはサポートを最も必要とするリーダーでありながら、サポートを求める傾向が最も低いことが分かっています。そして、このことは、エグゼクティブが失敗する最も一般的な原因が、サポートの欠如であることを説明するのに役立ちます。
ここ数年、私たちは多くの人事担当役員に、「組織で人が幹部になるとどうなるか」についてインタビューしてきました。ここでは、その中からいくつかを直接引用してご紹介します。
共通のテーマにお気づきですか?エグゼクティブは、人事部から異動をサポートするようなものを何ももらえないことがほとんどです。
なぜエグゼクティブが失敗しがちなのかを理解するのは簡単です。しかし、その無駄を考えてみてください。何年も投資してきたミッションクリティカルなリーダーを最適化しないことの代償は非常に大きいのです。
しかし、これは避けることができるものでもあります。エグゼクティブの落とし穴の多くは、一般的で予測可能なものです。このような落とし穴を回避するための意識と機敏性を高めることは、私たちが日々エグゼクティブのために行っていることです。重要なのは、手遅れになるのを待つことではありません。
8.おすすめソリューション
9.会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント