「量」の採用から「質」の採用へVol.8(5/7)
9.応募者増は必ずしも募集戦略の成功ではない
さて次に、新卒採用における募集(母集団形成)戦略について話を進めましょう。
このことに関し、企業の人事部門、ことに大手の企業によく見かける勘違いがあります。どんな勘違いかというと、学生募集の成否を応募者の人数(エントリーの数)によって判断していることです。応募人数が昨年より増えていれば成功、減っていれば不成功という見方です。
たしかに、応募者がたくさん集まれば、人事の採用部門としては安心できるでしょう。しかし、私にはこういう成否判断は、自社の採用戦略に基づくのではなく、リクルーティング支援会社の営業戦略に沿ったものに見えてなりません。というのも、応募者数が多ければ多いほど、そのスクリーニングに費やす労力と時間コストが増大するわけですから。
また、応募者増を募集の目的にしてしまうと、そのための求人広告にも多大のコストをかけねばなりません。どの学生に対しても自社を「よりよく見せる」ために。そして、リクルーティング支援会社の思惑どおりに。
こうしたコスト面の問題は横に置いておくことにしても、募集を行う目的は、けっして「玉石混淆(こんこう)でもいいから、応募者数は多ければ多いほどいい」ということではないはずです。募集においても「コンピテンシー採用」の思想を一貫して適用していただきたい。それが戦略的採用構想の最初の場面だと、私は考えています。
では、「コンピテンシー採用」の考え方からすると、募集の目標はどこに設定されるべきなのでしょうか。それは「応募者の母集団の中に、自社が求めるコンピテンシー(の要素)をもった学生が多数含まれていること」にほかなりません。
ですから、時間と労力をかけていただきたいのは、このコンピテンシーを策定するための社内情報収集や会議に対してであり、そこで定められたいくつかのコンピテンシーを、訴求力のある表現に集約する知的作業に対してです。
このことについて、もう少し詳しくお話ししましょう。
10.「出る杭を求む」というメッセージの意味
ここでいう「訴求力」とは、求人広告や入社案内でその文言を見て、誰もが「この会社はいい会社だ」と思うことではありません。いえ、それも必要な要素かもしれませんが、より重要なのはむしろ、誰にとっても「この会社はどのような人を求めているか」がよくわかるという意味での「訴求力」です。
求められる人材のイメージが理解されれば、「自分はそういうイメージに合致しない」と判断した学生は、その会社に応募してこないと期待できます。学生もまた、合格する可能性と就職活動の効率化を考えて応募先を選定するわけですから。一方、「自分こそそのイメージに合致する」と自己分析した学生は、他の応募予定会社を一社削ってでも応募してくるものと期待できるでしょう。
この二つの効果を同時に期待できるということが、コンピテンシーに基づいて対象者を絞りこむ募集戦略の眼目なのです。
たとえば、「出る杭を求む」という文言。これはソニーの創業者の一人である盛田昭夫氏が発案されたという、同社の求人広告に掲載された言葉です。これほど見事に、自社の求める人物像をいいあらわした表現はないでしょう。
ここから発せられるメッセージを私なりに解釈すれば、
というふうになります。当時の応募者もソニーからのメッセージを同様に受け取り、同社の求める人材イメージに合致する人が多数応募し、そうでない人の多くが応募をあきらめたのではないでしょうか。
これとは逆に、自社をよく見せるためだけのイメージ広告では、大きな母集団が形成できたとしても、ふたを開けてみればその中に、言葉は悪いですが玉石混淆のいわば「石」のほうがたくさん混じっていた、というリスクが高まるわけです。
ソニーが「出る杭を求む」の求人広告を出した当時、コンピテンシーという概念はまだ日本にはなかったと思われますが、ソニーのこの訴求方法は、企業カルチャーも含めた自社の特性を分析し、「求める人物像」に「どのような要件」を求めるかを、わかりやすい言葉で具体的に打ちだしています。その意味では、「必要なコンピテンシーをもった人を選別的に集める」という採用戦略を、まさに先取りしたものといえるでしょう。
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🔵会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント