第2章<目標を定める>個人特性4つの構成要素とは
1.個人特性~サクセス・プロフィールの中で最も開発するのが難しい要素
必要なすべての構成要素を網羅した完全なサクセス・プロフィールとは、成功するための行動要素と、行動の根底にある性質の両方を定義するものだ。この幅広いカテゴリー内では数多くの要因や傾向を語り合うことができるが、タレントマネジメントにおいては、4つの個人特性カテゴリーが浮かびあがる。
多くの個人特性は、リーダーの非凡な能力を表すものだが、仕事ぶりの阻害要因になる個人特性は、開発するのが難しいため独自の課題となる。とは言うものの、開発が難しいことを個人特性の測定を避ける理由にしてはいけない。個人の能力や傾向の根底にある特性を理解することは、変化する環境にリーダーを適応させる上で必要不可欠だ。なぜ自分はその行動を頻繁にとるのか――その理由を知ることは、これまで担ったことのない責任や、経験したことのない仕事を引き受ける準備をするのに何よりも役立つ。したがって、個人特性はサクセス・プロフィールの重要な要素なのである
🔶2.6図 個人特性
2.性格~リーダーの能力開発が加速化するにつれて重要度が増す
どんなに努力しても、自分の性格をすぐに、あるいは大きく変えることはできない。だから変える努力をする必要はないのだ。性格は良し悪しを問うものではない。人としての良し悪しを決めるのは、持って生まれた性格ではなく、何をするかである。人材育成と能力開発の専門家として、われわれは誰にでもポテンシャルがあると考えるし、実際にそれが事実であることを見てきた。だが、誰もが等しくリーダーに向いているわけではない。リーダーに求められるものが複雑になり、深く幅広い能力が必要になるにつれ、成功を決定づける要因として性格がより重要視される。
それはなぜだろう?どのような階層においてもリーダーシップの役割は難しいものだが、人材開発を加速化する際に性格が影響力を増す要因がいくつかある。1つ目は、役割が複雑になるにつれ、求められるスキルの幅が広くなることである。つまり、リーダーは今まで経験したことのない分野にまで自分の能力を拡張し、慣れない行動を取らなければならないのだ。自信あるいは過信、創造性あるいは奇抜さ、細心性あるいは完璧主義といった強烈な個性は、難しい課題に取り組む能力の促進要因にも、阻害要因にもなりうる。財務担当役員から大きなビジネスユニットの財務担当副社長に昇進した人は、リスクを嫌う(よく見られる阻害要因)ため、綿密な財務戦略を作ろうと奮闘するかもしれない。そして、失敗に対する恐れから、正当なアイデアを却下する。前職では、彼の持つリスクへの嫌悪感は、細心性と注意深さとして好ましく思われていたかもしれない。失敗してもその結果はさほど深刻ではなかったため、リスクへの嫌悪感は足かせにならなかっただろう。だが新しい役割ではこれが阻害要因になるのだ。
2つ目は、昇進するにつれてリーダーの性格が現れ、組織文化に直接的な影響を与えるようになることだ。特に経営幹部としての責任が重くなるにつれ、会議の参加や進行、会談や講演、意思決定、アドバイスや指示、他者と考えたり話したりすることに多くの時間が割かれるようになり、振り返ったり準備をしたりする時間が減る。その結果、リーダーの気質がより広く知れわたるようになる。気分、態度、ふるまい、考え方、好み、感情――それらすべてが職場の考え方を左右するのだ。ユーモアのセンスがあり、迅速な行動を好む外向的なリーダーは、思慮深さと慎重な実施計画を好むストイックで内向的なリーダーとは、異なる反応を得るだろう。行動規範や習慣は、リーダーの性格の直接的な結果として、次第に組織文化に組み込まれていくが、その行動規範は、仕事ぶりを促進する場合も阻害する場合もある。
3つ目は、仕事の多さと複雑さ、大変さ、予想外の課題やストレスなどのために、リーダーが自分の自然な行動を振り返ったり是正したりしにくくなる点だ。リーダーの行動はその大部分を反応行動が占めるようになるが、反応行動は本能的なもので、主にその人の根底にある気質から生まれる。大きなストレスがかかると、人は本来の性質を隠せなくなる。背負う責任のレベルが高くなるにつれ、その人の性格が広く知れわたるようになることは、キャリアアップにおいては自明の理である。どのようにリーダーが「広く知られる」ようになるかは、リーダーの成功に大きく関係することが多い。そしてリーダーの成功は、それを説明するサクセス・プロフィールによって明らかになる。第4章では性格の診断を、第5章ではリーダーがどのように阻害要因となる個人的特質の影響を減らしながら能力を伸ばすかを説明する。
3.モチベーション~成長の燃料
人の能力や性質とは別のものとして捉えるのが、モチベーションである。これは、職場における個人の根本的な欲望や願望である。サクセス・プロフィールの中で、そして特に人材開発の加速化の中で、モチベーションは成長を促す重要な要素であるにもかかわらず、多くの組織がそれを蔑ろにしているのは興味深いことだ。
これまでも述べてきたように、成長を加速化するとさまざまなエネルギーが生まれる。高速学習を受けている間、多くの学習者はスリルに似た感覚を味わうことがあるが、もし興味がないならそれは産まれない。最初から関心をもち、成功したいと強く思っている状態、つまりモチベーションがそこにあるからこそ産まれる。モチベーションは広く測定され、個人のキャリア志向や昇進意欲を判断したり、協働、達成、提携、影響を与えることへの志向性といった仕事に関する特定のモチベーションを診断したりするのに使われる。
「昇進意欲がある」と即座に宣言する人は多いが、彼らを駆りたてる動機はさまざまだ。役割や組織文化は多様であり、リーダーが個人としてとても興味をそそられるような、または逆に、まったく魅力を感じない、さまざまな異なる特長をもっている。サクセス・プロフィールを定義する際には、モチベーションと役割や職務との整合性を取ることが、大きな鍵になると認識しなければならない。新しいリーダーのモチベーションをうまく活用する方法が見出せれば、その組織は人材開発の加速化に向けて持続的なエネルギーを生み出すことができるだろう。第4章で、モチベーションの診断について詳しく紹介する。
4.認知力~人材開発の加速化に適した活用法
認知力(知的能力、知性などと同義)をサクセス・プロフィールに組み込むには慎重にならなければならない。リーダーの成功に認知力の高さが求められることは、当然である。数々の情報を素早く処理し、理解できないと、ビジネスや組織文化の大きな損害となる。サクセス・プロフィールに認知力を組み込むべきだ(仕事との関連性を確かめる適切な検証方法とともに)とわれわれが提唱するのはそのためだ。
しかし、認知力をサクセス・プロフィールに使用するには、特に人材開発の加速化に関わる場合、繊細な問題が伴うだろう。第一に、認知力は個人特性の中でも最も自分の意志でコントロールできない側面であるということだ。そのため、認知力テストの結果が悪かった個人へのフィードバックは難しい。認知力を改善するためにできることはほとんどなく、低い点数はネガティブでしかないので、認知力は人材開発の加速化に適用しづらいのが現実だ。経営幹部の意思決定の一助とするには有益だが、能力開発のツールとするには、決して有益とは言えない。
第二のポイントは、リーダーシップの役割の中で認知力の対となる感情的知性(EQ)の重要性だ。感情的知性と対人スキルは、認知力の不足を補って(そして克服して)くれることが多い。結局、認知力はリーダーの成功に大きな役割を果たすが、成功を予測する唯一の要素としては役に立たないだろう。そのように使った場合、偏見や不公平感を生むのはもちろん、人材開発の加速化の取り組みを阻害してしまう。第4章で、人材開発の加速化システムの中での認知力の診断についてさらに触れる。今は、コミュニケーション戦略および認知力の活用は成功を持続させるのに重要だということだけ理解しておいてほしい。
5.リーダーシップ・ボテンシャル~リーダーを早期の段階で特定するために
個人特性の最後のカテゴリーは、注目と研究の的となり、最近よく実施されているものだ。世界中の経営幹部が、企業の競争力を保つには低い階層のリーダーからより早く育成を始めるべきだと認識しているだが、リーダー全員に対してそうするのは現実的ではないし不可能だ誰の開発を、いつ加速化するかを選ばなければならないが、そこで浮上するのが、どのように選ぶかという問題だろう。これは投資に関わる意思決定であり、規律と厳しさを持って行わなければならない。
重要なのはポテンシャルの定義と、誰が速く成長してリーダーシップの高い階層で成功するかを示す信頼できる要素を見つけることだ。この要素は個人の気質によるところが大きいので、個人特性に含める。
うまく適用できれば、行動測定と組み合わせて、リーダーとしてのポテンシャルの指標を幅広くとらえるのに利用できる。そこで次の章では、リーダーシップ・ポテンシャルの早期段階での特定を含めたタレントレビューのプロセスについて取り上げよう。人材開発の加速化が最も有効で、投資効果の可能性が高いリーダーは一体どこにいるのか。それを定義するための有用な要素やプロセス、ツールを説明する。
6.機能させる
ビジネス・ドライバーとサクセス・プロフィールの特定は、ことに複雑でグローバルな多事業を展開している企業にとっては、労力を要する厄介な取り組みだと感じるかもしれない。しかし実を言えば、われわれはそのような躊躇を好ましい傾向と捉えている。これまでわれわれは、多くの企業がコンピテンシーの取り組みに失敗した事例を見てきた。すべての人事システムに新しいモデルを作って適用させるのに苦労しても、得られる価値は、それほどでもなかったのが原因である。
われわれや多くの組織が学んだのは、サクセス・プロフィールの取り組みが、実用化の計画がないまま作られた場合、価値を生み出すことがほとんどないということである。それは主に、新しいプロフィールを定義して伝え、組織内のすべての人事システムに使えるようにすることが目標とされているためだろう。このようなことを最初の目標にするのは間違いだ。
ビジネス・ドライバーとサクセス・プロフィールは、実際に使用しなければ狙いどおりの価値を生むことはできない。ビジネス・ドライバーは経営幹部が選び出して編集し、その後、人材に関する議論において、重要な概念として使われるのが理想だ。後継者管理の話し合い(ここで昇進への準備度が議題になる) は、皆によく知られ議論の対象となる人々に、ビジネス・ドライバーの言語を適用し、新しくて少ない言葉を使って人材について議論する土台を提供する最高の機会を作り出す。
言語が経営幹部に浸透し始めたら、それが使われるのと同時に組織の他の階層にも浸透させることで、大がかりな取り組みをすることなく、サクセス・プロフィールへのエネルギーと理解を組織全体に広げることができる。
7.おすすめ人材アセスメントソリューション
①コンサルティングソリューション
②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム
③オンライントレーニング&ディベロップメント
8.DDIとは
DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。
DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。
DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。
◆DDI社の4つの専門分野
DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。
9.会社概要
会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント