『こんばんは』『すいません。部屋の明かり、消していただけますか』『あの』『もしもし』『すいません……』 私がいくら呼びかけても、リビングの丸形シーリングライトは反応しませんでした。 『すいませーん!』 大きな声を出すと、ようやく光が瞬きました。 『うっせーな。なんだよ』 『あの、夜分にお騒がせしてすみません。お手数ですが、明かりを消していただけませんか』 『それは、俺に死ねってことか』 いや、そんなつもりは……、としどろもどろになると、シーリングライトはぶっきらぼうに言
「助けて! 今すぐ、来て」 真夜中。ベッドでスマホをいじっていたら、突然、友人から電話でSOSされた。事情を聞いても、彼女はひどく取り乱していて会話にならない。どうも、ただごとではなさそうだ。終電はなかったので、彼女のマンションまでタクシーで急行した。 「お願い。朝まで、ずっと一緒にいて」 部屋に入り、二人掛けのソファに密着して座る。友人は玄関を開けてからずっと私の手を握りしめていた。 「いったい、何があったの」 「警察に連絡したんだけど、まともに相手されなくて。親に電話
診察室に入ってきた女の顔を一瞥する。これは、と思い、椅子に座り直す。問診票には、夫を正気に戻す方法について相談したいと書かれているが、女の目は焦点を失っており、表情もうつろだった。彼女の方もだいぶ心労が溜まっているのだろう。旦那の症状はかなり悪いとみえる。 私はかんたんに自己紹介をすませ、早々に話をうながした。 「最近、夫の様子がおかしいんです」 ん、と思う。 「一か月、くらい前でしょうか。夫が正午過ぎに会社から帰宅したんです。私は、体調でも悪いのかと心配したんですが、
「待たんかー!」 東京の下町を全速力で走る。閑静な住宅街にあいつの怒声がこだまする。肩越しに振り返る。舌打ちが出る。鬼のような形相がどんどん近づいてくる。 逃亡資金が底をつきかけ、行き当たりばったりで空き巣に入ったのがまずかった。俺がこの町に潜伏している情報をどこで嗅ぎ付けたのか。金目のものが見つからず、勝手口のフェンスから路地へ飛び降りたところを巡回中のあいつに見つかった。警察の裏をかいて都内に移動したが、まったく功を成さなかった。 完璧だと思っていた罪が露見し、指名
長編ミステリ小説の構想を一年間、練ったが、結局、形にならなかったので供養する。ただ、いつか掘り起こすかもしれないので、ふとしたときに見返しやすいように要点をまとめておく。 テーマSNSによる予告殺人事件の謎を、超能力者の高校生たちが解き明かす、異能系の長編ミステリ。 物語の軸超能力×ミステリ 人間の醜さ(SNSの悪意と人種差別。超能力者である主人公たちが、殺人事件の捜査をし、解決するのだが、その行為自体がSNSで叩かれる) 主人公とヒロイン(あるいは、追加で生徒会長と
Twitterでちまちま書いている140字小説のまとめVol.4。 ほぼ、ネタ系で、仕事の辟易ぶりがうかがえる。 Vol.1はこちら サウナOMGレストラムごはんですよえっふぉーんふんどしニュータイプ誰かさんファミコン仕様変更全米が泣いた穴下山振り返れば奴がいる遭遇パターン新宿駅に、宇宙船が落ちてきた。周囲が騒然とするなか、船内から人が出てきた。 「dΞkφ」 言葉は通じなかったが、姿かたちは人間とそっくりで、空腹のようだった。 「ΠuΩe…」 宇宙人はひもじそうな声を出
AmazonKDPで、電子書籍を二冊、セルパブしている。 どちらも、ショートショート、短篇、中編で構成された大衆小説である。しかし、一冊目に比べて、二冊目がじぇんじぇん売れないので、その理由を自分なりに考察し、三冊目以降の成功につなげる。 本の内容まず、二冊の本の内容について整理する。 1.ドッペルゲンガーを殺せ: ショートショート・短編集 【価格】99円 【出版日】2017/2/11 【本の長さ 】167ページ(※装丁した場合の目安のページ数) 【紹介文】 ドッペルゲ
『おお、たけしよ! しんでしまうとはなさけない』 RPGでゲームオーバーになり、王様に怒られる。町を出て城の周りをぐるぐる回る。 『スライムがあらわれた!』 敵に遭遇する。こうげき、にげるの順にカーソルを移動させ、ぼうぎょを選択する。 『たけしはみをまもっている』 『スライムのこうげき! たけしは1ポイントのダメージをうけた』 たけしのHPが28から27に減る。選択画面が出る。次も、ぼうぎょを選ぶ。 『たけしは1ポイントのダメージをうけた』 HPが26になる。その後もぼうぎょ
Twitterでちまちま書いている140字小説のまとめVol.3。 くだらない系が多め。 Vol.4はこちら ワークライフバランス10時:起床。 10時30分:リモート会議。 11時:洗濯。 12時:ランチ。 13時:リモート会議。 14時:youtube。 15時:プログラミング。 17時:ジョギング。 18時:シャワー。 19時:退勤。 「ワークライフバランスが乱れていますね…」 カウンセラーの指摘に頷く。 「ですよね。会議の時間、削ります」 脳内裁判「被告は、反
Twitterでちまちま書いている140字小説のまとめのVol.2。はじめは、2021年7月~10月にかけて書いた分をひとつの記事にしようと思ったが、あまりに長すぎたので50作ずつに分割することにする。 Vol.3はこちら 落とし穴大地震による地盤沈下のせいで日本は穴だらけになった。道を歩いていたら、突然、アスファルトが陥没して地の底に落ちる事故が相次いだ。 「あーーー」 穴に落ちた者は遠ざかる空に絶望し 「あ、ああ…」 地球の中心で無重力を味わい、意外と心地よい浮遊感と
Twitterでちまちま書いている140字小説のまとめ。書き始めのころはバリー・ユアグローみたいな超短編を意識していたが、どうやらそういうんじゃないらしいと気付き、徐々にオチを意識するようになった。 Vol.2はこちら 飢え「小人ならお腹いっぱいなのに」が口癖の母親が死んでも状況は変わらなかった。長い日照りで作物が全滅し一家は飢えていた。「次は、私かも」姉は震えた。「いいや、僕だよ」弟も泣いた。父親はうな垂れたままサイコロを振った。三人はくるくる回る運命に祈りながら、次に
「やった。ついに、完成したぞ!」 郊外に建てられたアパートの一室でM氏は歓喜の声を上げた。 「やりましたね、博士。ということは、元に戻す薬も……?」 「当然、できておる」 助手も飛び上がって喜んだ。二人は抱き合い、涙を流すほどだった。それも仕方のないことだろう。もともとは国が主導で始めたプロジェクト。しかし、目に見える成果が一向に上げられず、予算は削られ、人も徐々に減っていった。ついに、政府から計画の中止を告げられたのが三年前。それでも諦めきれなかった二人は独立し、個人的
中学生くらいに書いた処女作を見つけてしまったので、供養する。 昔、はまりにはまったミニ四駆のモータを、こんなときに利用できるなんで思いもしなかった。 父さんの寝室の押し入れで、約四年間ほこりをかぶっていた。取り出すとき、箱の取っ手に蜘蛛のような足を持った虫が、にょきにょきうごめいていた。 それを複雑な気分で、僕は手で振り払う。そこまで僕もお人好しではない。その虫の名前も知らないくせに、見た目で悪と決め付けるような容赦のないことだってする。 人間は気紛れだ。 それは
なんとなく、140字小説を書いたときの思考の流れをアウトプットして、手順に落としてみる。なお、140字に限らず、400字くらいの超短編もだいたいこんな書き方をしている気がする。 1.ざっくりテーマを考える書きたいジャンルをざっくり考える。このときは「サスペンス」が書きたいなと思う。 2.テーマに沿う題材を考える物語に「サスペンス」がうまれる題材を考える。なんとなく「身代金」が思い浮かぶ。 3.主題に組み合わせる言葉を考える「身代金」と何を組み合わせたら面白そうかを考える
宮崎県の方言では「すべる」を「しゃべる」という。 雨でしゃべりやすくなった道、しゃべりどめの大学という具合だ。かわりに、しゃべるは「かたる」というので、地元でこの方言を意識することはないが困ったことがひとつある。宮崎には、全国的にも有名な音楽大学があり、県外からの進学者が殺到しているのだ。 「あのピアノ、ようしゃべらん?」 と地元の同級生にきかれ、言葉を失う学生がそこかしこにいた。 ピアノがすべるとは、鍵盤のタッチが軽くて流れるように弾ける、というピアノをたしなむ人にとっては
「この鞄にありったけの金を詰めろ!」 パン、と天井にむけて銃を撃つ。銀行の支店長をおどし、金庫から一億円を奪う。裏口から出て、すぐにアジトに戻る。四畳半の畳に鞄の中身をぶちまける。札束の海にダイブして一万円札の水しぶきを浴びる。 「Take Your Marks」 と脳内で聞こえる。 すぐに立ち上がりスタートの姿勢をとる。「プッ」と機械音が鳴り、再度、札束に飛び込む。スタートは上々。第二レーンを先頭で泳ぐ。押し入れにタッチ、クイックターン。バタフライから背泳ぎに移る。 個人メ