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戦略の本質をつかむ②3つの視点で組み立てる“勝てる戦略”
企業が激しい競争にさらされる現代のビジネス環境では、ただ闇雲に経営リソースを投下したり、場当たり的に新規顧客を狙ったりするだけでは成果は得られません。前述のとおり、理論を学ぶだけでなく「自社の実情にどのように落とし込むか」を意識した“当てはめ”が必要です。しかし、この当てはめを成功させるためには、戦略を考える際の複数の視点を統合的に使いこなす能力が必要です。ここでは、その基盤となる3つの柱、すなわち「マーケティング視点」「競争視点」「全社視点」について解説します。
(1)マーケティング視点:顧客を起点に考える
「顧客は誰で、何を求めているのか?」マーケティング視点を簡潔に言い表すと、まずこの問いから始まります。自社の製品やサービスを利用する顧客のニーズを徹底的に洗い出し、そこから提供価値を逆算していく考え方です。かつての大量生産・大量消費の時代には、製品を作れば売れるという側面もありました。しかし、消費者の価値観が多様化し、商品ライフサイクルが短くなった現代では、ターゲットを明確に定め、顧客が具体的にどんな体験やメリットを求めているかを理解しておかなければ、戦略は宙に浮いてしまいます。
マーケティング視点を持つとは、下記のような具体的な問いが生まれることです。
「自社が狙うべき市場セグメントはどこか」
「そのセグメントが商品に求める価値は価格か、品質か、それともブランドイメージか」
「どの流通チャネルを使えば、そのセグメントに確実にリーチできるのか」
これらはマーケティング・ミックス(4P)やセグメンテーションなどのフレームワークと密接に関わります。たとえば「桃屋」の事例であれば、既存顧客に加えて新たに開拓したい層がどのような食のニーズやライフスタイルを持っているのかを分析し、それに合わせてプロモーションや販売チャネルを工夫してきたわけです。
このように顧客のリアルな姿を正しくとらえておくことは、戦略の打ち手を具体化する上での出発点になります。
さらに、マーケティング視点は「継続的な価値提供をどう実現するか」を問うものでもあります。単発的にモノを売るだけでなく、リピート購入やブランドロイヤルティを高めるために、サブスクリプションモデルやオンラインコミュニティの活用など、新たな収益モデルを創出する取り組みにもつながります。このように、顧客を起点として考えるマーケティング視点は、日々移り変わる消費者の嗜好変化に柔軟に対応できるという大きなメリットをもたらしてくれます。
(2)競争視点:業界全体とプレーヤーを把握する
マーケティング視点が「顧客を見つめる」視点だとしたら、競争視点は「市場の中の他のプレーヤーとの関係性」を見つめる視点です。ビジネスにおける戦いは、顧客を奪い合う競合他社だけを見ていれば十分というわけではありません。サプライヤーや流通業者、あるいは製品に代わる代替品を提供している企業なども、広い意味では自社の利益を脅かす競争相手になります。
たとえば、ポーターの5Forces分析が有名ですが、これを適切に使いこなすには、以下のような観点を踏まえなければなりません。
既存競合との競争:製品・サービスを差別化できているか、あるいはコストリーダーシップを握れているか
新規参入者の脅威:テクノロジー変化や市場の規制緩和が、新たな競合を生み出していないか
代替品の脅威:消費者にとって魅力的な代替手段が増えていないか
サプライヤーの交渉力:原材料や流通網が特定の企業に抑えられていないか
顧客の交渉力:大口顧客やプラットフォーマーなどによって価格決定権を握られていないか
「セブンイレブン」の例を考えてみると、コンビニエンスストアの競合は他のコンビニチェーンだけではありません。ドラッグストアや総合スーパー、またはECサイトなども、消費者にとって“必要なものを手に入れる”という点である種の代替手段として存在します。さらに、店舗網を支える物流会社や仕入れ先がどれだけの交渉力を持っているかによって、原価や販売価格の設定にも影響が及ぶわけです。
このように、競争視点を取り入れると、単なる“隣りの競合”だけではなく、業界全体の構造や価値チェーンを俯瞰し、自社の強みや弱みをどこで活かすか(克服するか)といった判断をより精密に行えるようになります。近年は、プラットフォーマー(たとえば、Amazon、Apple、Googleなど)の存在感が極めて大きく、業界構造を根底から変えてしまうケースも増えています。たとえ中小規模の企業であっても、競争視点を怠れば、不意に大手プラットフォーマーの市場参入によってシェアを奪われるリスクがあります。
(3)全社視点:複数事業・経営資源の最適配分を考える
3つめの柱である全社視点は、企業が複数の事業や製品ラインナップを持つ場合や、異なる市場へ多角化を進める場合などに必要不可欠です。部分最適ではなく、「企業全体として最も効果的な資源配分は何か」を考えるための視点といえます。
典型的なフレームワークに挙げられるのが、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)です。成長市場でシェアを伸ばす“花形(Star)”事業には積極投資を行い、成熟市場で安定収益を稼ぐ“金のなる木(Cash Cow)”事業から得たキャッシュをさらに成長分野へ再投資する、こうした全社レベルの視点があるからこそ、企業は限りある経営資源を最大限に活かすことができます。
一方で、全社視点を持つことは、「撤退」や「事業売却」といった意思決定を下す場面でも大きな意味を持ちます。経営トップとしては、感情的には残したい事業があっても、全体最適の観点からみて明らかに採算が合わない事業であれば早期に整理し、他の成長分野に注力することが得策となる場合があります。伝説的な経営者ジャック・ウェルチがGEで行った「選択と集中」のアプローチは、まさに全社視点を徹底した結果だともいえます。
また、この全社視点は、企業文化や組織構造にも深く関わります。たとえば製造部門と販売部門がそれぞれ最適化を追求していても、全社的なコスト削減やブランディングを考慮できていない場合、企業としての価値創造が低下してしまうことがあります。さらに、海外事業の展開においては、本社と現地法人のマネジメント方針がずれないようにするため、全社レベルでの目標設定とリソース配分が欠かせません。
このように、全社視点は「どの事業で勝負し、どの領域でリスクをとるか」「自社の経営資源をどこに投下すれば中長期的に成長できるか」を見極めるための判断軸を提供します。特に多角化企業においては、この視点がなければ個別事業ごとの最適化に終始してしまい、企業全体の進むべき方向性が見失われかねません。
(4)3つの柱を統合してこそ戦略は機能する
ここまで見てきたように、「マーケティング視点」「競争視点」「全社視点」は、それぞれフォーカスする領域が異なります。
· マーケティング視点:顧客のニーズを起点とした商品・サービスの価値設計やプロモーション
· 競争視点:業界構造や競合企業、サプライヤーなど広範なプレーヤーとの力関係を把握
· 全社視点:事業ポートフォリオや経営資源全体の最適配分を検討
たとえば、顧客に寄り添った優れた商品ができても、ライバル企業の価格戦略やサプライチェーンの交渉力を見誤れば市場シェアは奪われてしまいます。また、個別事業では収益を上げていても、全社的に見たときには長期的な投資を怠り、企業全体の将来性が危うくなる可能性もあります。結局のところ、この3つの柱をバランスよく組み合わせ、都度アップデートしていく姿勢こそが、戦略思考を盤石にします。
実際の戦略策定プロセスにおいては、まずマーケティング視点で顧客インサイト(潜在ニーズ)をしっかり掴み、それを支える競争視点で「自社が勝てる領域」と「脅威となりうるファクター」を分析します。そのうえで、全社視点を活かして、具体的に「どの事業・どの市場にリソースを投資すべきか」「撤退やリストラを検討すべき領域はどこか」といった意思決定を下す流れになります。いずれか一方が欠けたり、あるいは過剰になったりすると、戦略としての整合性や持続性を失ってしまします。
(5)最新の知見と今後の展開
近年のビジネス環境は、DXやAIの台頭、顧客ニーズの急激な変化、そして国際情勢の不確実性など、多面的な要素が同時並行で押し寄せています。こうした時代においては、3つの柱それぞれにおいて新たな知見やツールが続々と登場しています。
マーケティング視点:SNSやオンラインプラットフォームを通じた顧客との双方向コミュニケーション、ビッグデータを活用したパーソナライゼーション、サブスクリプションモデルの普及など
競争視点:プラットフォーマーの参入による業界再編、シェアリングエコノミーが従来のビジネスモデルに与える影響、サプライチェーンの地政学リスクなど
全社視点:企業グループ内でのデータ連携、国内外のM&Aやアライアンスによる事業統合、コーポレートガバナンスの強化とESG(環境・社会・ガバナンス)投資の高まりなど
これらの変化に対応するには、3つの柱を常にアップデートし、統合的に見渡せるマネジメント体制が必要になっています。特に、DXの進展によってマーケティング分析や競争環境モニタリングがリアルタイムで可能になった結果、戦略策定サイクルのスピードが問われるようになってきました。今や、年に一度の経営計画の見直しだけでは競合に先手を打つのは難しく、より短いスパンで市場に対応するための組織的な“アジリティ”(俊敏性)が求められています。
まとめ
「マーケティング視点」「競争視点」「全社視点」の3つをそれぞれ理解するだけでは、本当の意味での戦略思考は完成しません。これらを状況に応じて有機的に組み合わせる“センス”こそが、先の見えない時代で勝ち残る戦略の根幹をなすからです。ある局面ではマーケティングの顧客洞察が重要になりますし、別の局面では競争環境を一気に塗り替える破壊的イノベーションに注目する必要が出てきます。また、全社視点によって、局所的な勝利にとどまらず企業全体の持続的成長を実現することを目指すことが必要です。
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