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野村胡堂『銭形平次捕物控』第16話~第20話 紹介と感想

148話「九尾の狐」は以前別のタイミングで公開されたからか、今週はYouTubeでの銭形平次の配信が無かったので、久しぶりに原作の感想をあげたいと思います。
今回は、お品さんが活躍する連作のようなエピソードも含まれるここまでの総決算的な物語となります。


第16話「人魚の死」(『オール讀物號』1932年7月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(四)城の絵図面』嶋中書店, 2004, p.83-110
野村胡堂/著 末國善己/編『櫛の文字 銭形平次ミステリ傑作選』東京創元社, 2019, p.67-91
野村胡堂『銭形平次捕物控 傑作集 四 八五郎大変篇』双葉社, 2020, p.5-35

あらすじ
平次を連れて八五郎が向かったのは、最近江戸で話題になっている、海女2人が水の中で龍の玉を巡って争う見世物だった。
翌日、八五郎が飽きずに見世物を見ていると、目の前で海女の一人・お松が水槽の中で水を真っ赤に染めて死んでしまった。胸から腹へかけて真一文字に斬り裂かれていたのだ。
慌てた八五郎が平次を呼びに行くが、現場を放り出して駆けて来た八五郎を叱った平次は、自分一人で事件を調べてみろと説教をする。
八五郎は関係者を調べ、利助にも意見を聞いた上でもう一人の海女・お村を捕まえる。
しかし、犯人はお村ではないようで、利助にも懇願された平次は事件に乗り出すことにした。

紹介と感想
和解して柔らかくなった利助の姿も見られる今作は、事件の派手さが目を引きます。
煽情的な海女の見世物中に、真っ赤に染まる水槽の水と、一昔前ならエロス漂う作品と宣伝されたような内容です。
事件のタネは単純ながら、しっかり読者にも予想ができるように記載されており、コンパクトながら満足度のある作品です。

レギュラー:八五郎、笹野(地の文のみ)、利助
投げ銭:なし


第17話「赤い紐」(『オール讀物號』1932年8月号)

野村胡堂/著 縄田一男/編『時代小説英雄列伝 銭形平次』中央公論新社, 2002, p.84-110
野村胡堂『銭形平次捕物控(二)八人芸の女』嶋中書店, 2004, p.197-228

あらすじ
神田祭の前日、美人で話題の金沢町のお春が男に引きずられるようにして消えてしまった。
平次達が探索を始めると、程なくして花笠の赤い緒で絞殺されているお春が見つかった。
お春と祝言の仲を誓った長吉が疑われたが、犯人ではないと釈放される。
その後も、容疑者が浮上するが決め手にかける者ばかり。笹野からも明日までには解決するように言われてしまう。
平次は、現場に落ちていた手拭いを手掛かりに、犯人へ近づいていく。

紹介と感想
神田祭の賑わいと対比するような悲劇が隠されていた事件は、潮吹の哀しき踊りが印象に残ります。
事件としては、全て後出しで情報が出てくる上に、科人狩の名人の同心・湯浅鉄馬の存在が活かせてなかったのも惜しい所でした。
見所は、潮吹と一緒に踊るお多福の存在になります。

レギュラー:八五郎、笹野
投げ銭:なし


第18話「富籤政談」(『オール讀物號』1932年9月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(六)結納の行方』嶋中書店, 2004, p.320-351
野村胡堂『銭形平次捕物控 傑作集 五 江戸風俗篇』双葉社, 2020, p.5-41

あらすじ
どうにか知恵を借りたいと、お品が平次の家を訪ねて来た。
お品の家の近所に住むお勢が、家から富籤を盗まれたと大騒ぎを始めたのだ。
しかも、調べの為にお勢の家へ行ってみると、下女のお虎が後頭部を殴られ死んでいた。
平次が調べに行くと、お勢はお金も盗まれたと言い出し、更に盗まれた富札の番号がお品に行った番号と変わっていた。
平次は、お品と一緒に富突きが行われる海雲寺へ足を運び、事件のカラクリを探り出す。

紹介と感想
利助の持病が悪化し、いよいよお品が活躍を始めます。そのため、八五郎がお休みとなり、お品が平次の相棒となって存分に事件に取り組んでいきます。
大掛かりな陰謀は、盗まれた富籤騒ぎにより露見してしまいます。
特徴的な面白さがある訳ではありませんが、バランスよく楽しめ富籤についての知識も得ることができる佳作だと思います。
また、第10話「七人の花嫁」と登場人物的な繋がりがある話でもあります。

レギュラー:お静、お品
投げ銭:なし(富札は投げる)

映像化
 嵐寛寿郎・主演 第1作『富籤政談』(1933) ※未見
  監督: 脚本: 出演:淡路千夜子、嵐徳三郎、春日清、歌美陽子ほか


第19話「永楽銭の謎」(『オール讀物號』1932年10月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(九)不死の霊薬』嶋中書店, 2004, p.331-363

あらすじ
石原の利助が眉から瞼へかけて深い傷を負い、現場には永楽銭が一枚落ちていた。
利助は平次を疑い、新米子分の徳三郎を鍛えてくれとの理由を付けて平次の元へ送る。
利助の家からの帰り道、平次は「富籤事件」から姿を消していたお勢と再会する。
数日後、今後はお静を巡って平次と争った遊び人の弥助が左眼を突かれた上に額を割られて殺された。現場には永楽銭が一枚落ちており、現場の隣にある空き家では平次の煙草入れが見つかった。
岡っ引仲間も平次が犯人だと疑うが、笹野は、自らの潔白を証明してみろと平次を現場へ連れて行く。
果たして、平次を陥れようとしているのは誰なのか。犯人の魔の手はお静へも向けられていく。

紹介と感想
第18話と合わせて連作となっている物語です。
犯人などは読んでいてすぐに分かる内容ですが、ここまでの総決算のようにレギュラーメンバーを巻き込んだ事件という展開で最後まで読ませてくれます。
自分が怪我をしたため、平次への疑いを抱いた利助も、これにて完璧に平次に兜を脱ぐ事になります。

レギュラー:八五郎、お静、お品、笹野、利助
投げ銭:なし


第20話「朱塗りの筐」(『オール讀物號』1932年11月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ』嶋中書店, 2004, p.151-186

あらすじ
大商人・石井三右衛門の奉公人・お町が何者かに尾けられていると平次の家へ駆けこんで来た。
三右衛門が人に貸した證文が入った朱塗りの筐を訳あって持ち出してきたが、目的地へ持って行けるか不安なので預かって欲しいと頼まれた平次は承知した。
お町が家に帰り着くまで八五郎に見張らせることにしたが、わずかな隙を突いてお町は殺されてしまう。
平次は内部の者の犯行だと検討を付け、石井三右衛門の屋敷へお品を潜入させる。

紹介と感想
平次が30歳になったばかりの事件です。まだまだお品が活躍する話が続きます。
大きく特徴のある話ではありませんが、お白州に関係者全員を集めてクライマックスを迎えるのが見どころと言えるかもしれません。

レギュラー:八五郎、お品、笹野
投げ銭:なし

漫画
木村直巳 第9話「朱塗りの箱」

原作では存在感の無い倅の三之助や主人の三右衛門、中盤以降殆ど触れられなかった朱塗りの箱をドラマの中心におくことで、人情ドラマとして面白くなるように改変されていました。また、お品の代わりにお静が潜入しています。
お町の口から三右衛門が平次のことを褒めていたことを聞いて照れている平次がかわいかったです。


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