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ジャン・リシャール主演『メグレ警視』54「メグレとひとりぼっちの男」、57「メグレと殺された容疑者」、68「モンマルトルのメグレ」 紹介と感想

1967年の『メグレと死んだセシール』から1990年の『ニューヨークのメグレ』まで、23年に渡り全88話製作されたジャン・リシャール版メグレ警視。

話数が多いので、ドラマ初期に製作された初期メグレ人気作を後期に3話だけ再映像化していますが、それでも長編・短編作品合わせて原作85本が映像化されており、このシリーズでしか映像化が観れないものも多くあります。
 
しかし、日本でビデオ化されているのは以下の5本だけになります。
 
第52話「メグレ間違う」(1981)
第54話「メグレとひとりぼっちの男」(1982)
第57話「メグレと殺された容疑者」(1983)
第64話「メグレとリラの女」(1984)
第68話「モンマルトルのメグレ」(1985)
 
上記の内、3本だけビデオを観ることができたので感想を残しておきます。

観た限りでは、日本の2時間ドラマでも良く見られる製作年代=作中年代のタイプの作品になっており、観た作品は80年代のパリが舞台となっていました。
 
ロニョンの目立つ原作が「メグレと不愛想な刑事」『メグレと若い女の死』『メグレ警視と生死不明の男』と3話も映像化されているなど、他にも観たいドラマ化作品が多いため、いずれ日本語訳がある状態で全話見られるようになると良いなと思います。
先ずは、残りの2本のビデオを手に入れたいところです。


ドラマ概要

題名:Les enquêtes du commissaire Maigret
製作:フランス/1967~1990年/全88話
 
レギュラー・準レギュラー
   メグレ/ジャン・リシャール

 メグレ夫人/アニック・タンギー
   リュカ/フランソワ・カデ
 
ジャンヴィエ/クリスチャン・レミー(1967~1968)
       ジャン=フランソワ・デュヴォ(1971~1982)
       ジャン=ピエール・モーラン(1982~1990)
  トランス/ミシェル・ドラン(1982~1990)
 ラポワント/モーリス・クーソンノー(1975~1977)
       グザヴィエ・ギテ(62話)
  ロニョン/イヴォンヌ・デケード(15話)
       ベルナール・ラジャリゲ(23話、33話)
       ジャック・リスパル(68話)
       アンリ・ヴィルロジュー(79話)


第54話「メグレとひとりぼっちの男」(1982/93分)

原作:『メグレとひとりぼっちの男』(1971)

事件の骨格は同じでも、描き方が原作とは大きく変わっていました。

殺されたルンペンは「ルネ」と呼ばれており、ルンペン仲間が通報する形に変更されていました。
原作で中途半端な扱いだった廃屋とガラクタの話はドラマではカットしていました。

妻、娘それぞれに原作とは違うドラマを追加しており、特に娘の立ち位置は原作と大きく変わっています。
原作では途中で放り出されたヴィヴィアンのドラマの代わりに妻と娘のドラマを膨らませ、殺害描写をよりドラマチックにする事で、原作の物足りなさを補っている映像化になっており楽しめました。

しかし、娘へのフォローが途中で終わってしまったのが惜しかったです。


第57話「メグレと殺された容疑者」(1983/94分)

原作:『メグレと殺された容疑者』(1962)

物語は原作より前、エミールの店がマゾッティの子分に襲撃される場面から始まり、原作の時間軸に入るのはドラマが始まってから約35分後とかなりゆっくりとなります。
原作と違い、エミールの人柄や家族との描写が直接描かれており、アダと仲良くしている若い男・ロリオというオリジナル要素も盛り込まれるなど、比較的改変の多い展開です。
 
前半の捜査は若手のボーフィス刑事が担当し、その後もメグレと行動を共にします。
自分を賢いと思っている新人刑事の設定ですが、成長物語という扱いでもなく、今回限りのため扱いが中途半端に感じられました。
 
メグレが関係者を順番に回っていく描写は省略され、早い段階でガイヤールと面談します。
エミール自身の描写や容疑者の追加によって、「敵がいない生真面目な男がなぜ殺されたのか」というテーマと、その最後の夜の行動を追う部分は弱まっていました。

また、後半にガイヤールと話す場面が少ないため、原作以上に性急に事件が解決に向かう感じが強まっています。
終盤の怒りと悲哀もドラマでは殆ど感じられないため、不完全燃焼感が強い映像化でした。


第68話「モンマルトルのメグレ」(1985/85分)

原作:『モンマルトルのメグレ』(1950) 

冒頭の雨の路上から警察署へ向かうシークエンスが再現されており嬉しかったです。

メグレ班からはリュカとジャンヴィエが登場します。ロニョンも顔を見せますが、ちょい役で〝不愛想な刑事〟ではないのが不満でした。
ラポワントの役回りはゲストの新人刑事であるアルベール・ラクロワが担当しています(後に第80話にも再登場するようです)。
ちなみに、メグレの甥にジェローム・ラクロワがいますが(中編「マドモワゼル・ベルトとその恋人」参照)、同一人物ではないと思います。

メグレが主人公のドラマとして、メグレが原作よりもやや強めに感情を表していました。
最後のシーンもラクロアでは無く、メグレに焦点を当てて終幕となっています。

観ることができた他の同一原作映像化と違い、アルレットへ迫る要素を強く打ち出しているのは良かったのですが、ドラマの尺が短かったためそれ以外の要素が薄味すぎるところが勿体なく思います。

ドラマの雰囲気は良く好きではありますが、尺を長くしてアルレット以外の描写も丁寧にすればもっと面白くなったのにと感じる内容で物足りなさを感じてしまいました。


シリーズ一覧

01「Cécile est morte」(1967) 原作:『メグレと死んだセシール』
02「La tête d'un homme」(1967) 原作:『男の首』※59話で再映像化
03「Le chien jaune」(1968) 原作:『黄色い犬』※76話で再映像化
04「Signé Picpus」(1968) 原作:『メグレと謎のピクピュス』
05「L'inspecteur cadavre」(1968) 原作:『メグレと死体刑事』
06「Félicie est là」(1968) 原作:『メグレと奇妙な女中の謎』
07「La maison du juge」(1969) 原作:『メグレと判事の家の死体』
08「L'ombre chinoise」(1969) 原作:『影絵のように』
09「La nuit du carrefour」(1969) 原作:『メグレと深夜の十字路』※65話で再映像化
10「L'écluse N°1」(1970) 原作:『第一号水門』

11「Maigret et son mort」(1970) 原作:『メグレと殺人者たち』
12「Maigret」(1970) 原作:『メグレ再出馬』
13「Maigret à l'école」(1971) 原作:『メグレと田舎教師』
14「Maigret en vacances」(1971) 原作:『メグレのバカンス』
15「Maigret et le fantôme」(1971) 原作:『メグレと幽霊』
16「Maigret aux assises」(1971) 原作:『重罪裁判所のメグレ』
17「Le port des brumes」(1972) 原作:『霧の港のメグレ』
18「Maigret se fâche」(1972) 原作:『メグレ激怒する』
19「Pietr le Letton」(1972) 原作:『怪盗レトン』※この作品からカラー
20「Maigret en meublé」(1972) 原作:『メグレ夫人のいない夜』

21「Mon ami Maigret」(1973) 原作:『メグレ式捜査法』
22「Maigret et l'homme du banc」(1973) 原作:『メグレとベンチの男』
23「Maigret et la jeune morte」(1973) 原作:『メグレと若い女の死』
24「Maigret et le corps sans tête」(1974) 原作:『メグレと首無し死体』(1955)
25「Maigret et la grande perche」(1974) 原作:『メグレと消えた死体』
26「La folle de Maigret」(1975) 原作:『メグレと老婦人の謎』
27「La guinguette à deux sous」(1975) 原作:『三文酒場』
28「Maigret hésite」(1975) 原作:『メグレと殺人予告状』
29「Maigret a peur」(1976) 原作:『メグレの途中下車』
30「Un crime en Hollande」(1976) 原作:『オランダの犯罪』

31「Maigret chez les Flamands」(1976) 原作:『メグレ警部と国境の町』
32「Les scrupules de Maigret」(1976) 原作:『メグレと火曜の朝の訪問者』
33「Maigret, Lognon et les gangsters」(1977) 原作:『メグレ警視と生死不明の男』
34「Maigret et Monsieur Charles」(1977) 原作:『メグレ最後の事件』
35「L'amie de madame Maigret」(1977) 原作:『メグレ夫人と公園の女』
36「Au rendez-vous des Terre-Neuvas」(1977) 原作:『港の酒場で』
37「Maigret et le marchand de vin」(1978) 原作:『メグレとワイン商』
38「Maigret et les témoins récalcitrants」(1978) 原作:『メグレと口の固い証人たち』
39「Maigret et le tueur」(1978) 原作:『メグレと録音マニア』
40「Maigret et l'affaire Nahour」(1978) 原作:『メグレと賭博師の死』

41「Liberty Bar」(1979) 原作:『自由酒場』
42「Maigret et le fou de Bergerac」(1979) 原作:『メグレを射った男』
43「Maigret et l'indicateur」(1979) 原作:『メグレと匿名の密告者』
44「Maigret et la dame d'Étretat」(1979) 原作:『メグレと老婦人』
45「L'affaire Saint-Fiacre」(1980) 原作:『サン・フィアクル殺人事件』
46「Le charretier de la providence」(1980) 原作:『メグレと運河の殺人』
47「Maigret et l'ambassadeur」(1980) 原作:『メグレと老外交官の死』
48「Le pendu de Saint-Phollien」(1981) 原作:『サン・フォリアン寺院の首吊人』
49「Maigret en Arizona」(1981) 原作:『メグレ保安官になる』
50「Une confidence de Maigret」(1981) 原作:『メグレの打明け話』

51「La danseuse du Gai-moulin」(1981) 原作:『ゲー・ムーランの踊子』
52「メグレ間違う」(1981) 原作:『メグレ間違う』(1953)
53「Le voleur de Maigret」(1982) 原作:『メグレの財布を掏った男』
54「メグレとひとりぼっちの男」(1982) 原作:『メグレとひとりぼっちの男』
55「Maigret et les braves gens」(1982) 原作:『メグレと善良な人たち』
56「Maigret et le clochard」(1982) 原作:『メグレとルンペン』
57「メグレと殺された容疑者」(1983) 原作:『メグレと殺された容疑者』
58「Maigret s'amuse」(1983) 原作:『メグレ推理を楽しむ』
59「La tête d'un homme」(1983) 原作:『男の首』※再映像化
60「Un Noël de Maigret」(1983) 原作:「メグレのクリスマス」

61「L'ami d'enfance de Maigret」(1984) 原作:『メグレの幼な友達』
62「Maigret se défend」(1984) 原作:『メグレたてつく』
63「La patience de Maigret」(1984) 原作:『メグレと宝石泥棒』
64「メグレとリラの女」(1984) 原作:『メグレとリラの女』
65「La nuit du carrefour」(1984) 原作:『メグレと深夜の十字路』※再映像化
66「Le client du samedi」(1985) 原作:『メグレと妻を寝とられた男』
67「Le revolver de Maigret」(1985) 原作:『メグレと拳銃』
68「モンマルトルのメグレ」(1985) 原作:『モンマルトルのメグレ』
69「Maigret chez le ministre」(1987) 原作:『メグレと政府高官』
70「Un échec de Maigret」(1987) 原作:『メグレの失態』

71「Maigret voyage」(1987) 原作:『メグレとかわいい伯爵夫人』
72「Monsieur Gallet, décédé」(1987) 原作:『死んだギャレ氏』
73「Les caves du Majestic」(1987) 原作:『メグレと超高級ホテルの地階』
74「La pipe de Maigret」(1988) 原作:「メグレ警視のパイプ」
75「Maigret et la vieille dame de Bayeux」(1988) 原作:「バイユーの老婦人」
76「Le chien jaune」(1988) 原作:『黄色い犬』 ※再映像化
77「Le notaire de châteauneuf」(1988) 原作:「メグレと消えたミニアチュア」
78「Maigret et le témoignage de l'enfant de choeur」(1988) 原作:「児童聖歌隊員の証言」
79「Maigret et l'inspecteur malgracieux」(1988) 原作:「メグレと不愛想な刑事」
80「La morte qui assassina」(1988) 原作:「世界一ねばった客」

81「Maigret et le voleur paresseux」(1988) 原作:『メグレと優雅な泥棒』
82「Maigret et l'homme dans la rue」(1988) 原作:「街中の男」
83「Tempête sur la manche」(1989) 原作:「メグレの退職旅行」
84「L'amoureux de madame Maigret」(1989) 原作:「メグレ夫人の恋人」
85「L'auberge aux noyés」(1989) 原作:「メグレと溺死人の宿」
86「Jeumont 51 minutes d'arrêt」(1989) 原作:「停車──五十一分間」
87「Stan le tueur」(1990) 原作:「殺し屋スタン」
88「Maigret à New-York」(1990) 原作:『ニューヨークのメグレ』


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