それいけ!アンパンマン 第1631話「ジャムおじさんとアンパンマン」(2023)感想
あらすじ
メロンパンナちゃんに、なんでパンを作るのが尋ねられたジャムおじさんは、少年時代のあるエピソードを語る。
その頃、アンパンマンはポエムさんという謎の詩人に出会い、「君はなんのために生まれたの? なにが君の幸せ? なにをしたら喜ぶ?」と質問をされていた。
ジャムおじさんのパン作りの原点と、アンパンマンの行動の原点が描かれる特別編。
詳細なあらすじ(ネタバレあり)
パトロールに行くアンパンマンを見送るパン工場のみんな。
朝ご飯を食べながら、クリームパンダちゃんがジャムおじさんに質問する。
「ねえ、なんでこんなに美味しいパンが作れるの?秘密があるの?」
「秘密なんかないよ。いつもおいしくな~れと思いながら作っているんだよ」
メロンパンナちゃんが、なんでパンを作るようになったのかを尋ねると、ジャムおじさんは、少年時代のエピソードを語りだした。
空腹で歩いていた少年時代、歩いても中々家につかず、眼下に見える家々の明かりの下では、みんな晩ごはんを食べているんだろうけど、誰も自分には気づいてくれないんだと悲しくなった。
こぼれた涙をげんこつで拭いた時、流星が降り注いぎ始める。
手元に落ちた流れ星に触れると、あんぱんになった。
「あの時に食べたあんパンほど、おいしいものを私は知らない」
それからジャムおじさんは、「私も食べた人が喜ぶようなパンを作りたい。そして、お腹が空いて、ひもじい思いをしている人に食べてもらいたい」と考えるようになった。
その頃、パトロール中のアンパンマンは、空腹で困っているヤギおじさんや動物たちにパンを分け与えていた。
顔が欠けてふらふらのアンパンマンは、ポエムさんの休んでいる所へ着地する。
ポエムさんは空腹で力が出なくなっていた。
アンパンマンのパンを食べたポエムさんは、アンパンマンの詩を読みたくなり、アンパンマンへ質問をする。
「君はなんのために生まれたの? なにが君の幸せ? なにをしたら喜ぶ?」
アンパンマンは「僕は、お腹が空いて、困っている人を助けるために生まれてきました。だから、ひもじい人に食べてもらうことが、一番うれしいんです」と返答する。
「でも、そのせいで顔は欠けてしまうし、飛ぶ時はフラフラだし。ハッキリ言ってカッコ悪い。それでいいの?」「このまま顔をあげ続けて、君がいなくなっても?」と重ねて尋ねるポエムさん。
その質問にも、アンパンマンは笑顔で「はい。僕はパンだから食べられるのが幸せなんです」と答えるのだった。
同じ頃、ジャムおじさんも、「私はね、パンを作ることが大好きなんだよ。だから、パンを作ってる時はとっても幸せなんだよ。お腹が空いてひもじい思いをしている人に、美味しくパンを食べてもらうことが一番うれしいんだ」と皆に語っていた。
ご飯後、みみせんせいとがっこうのなかま達がピクニックの声かけに訪れた。
メロンパンナとクリームパンダはみんなと一緒にピクニックへ行く。
お昼ご飯は、しょくぱんまんとカレーパンマンが作ってくれた。
その頃、バイキンマンとホラーマンは、ドキンちゃんのプリンを食べたことで怒られていた。
ピクニック中の皆を見つけたバイキンマンとホラーマンは、昼食を求めてだだんだんで飛び出した。
食事を全て奪い、皆を折に閉じ込めて空の彼方へ飛ばすことに成功したバイキンマン。
しかし、ホラーマンとかびるんるんに全て食べられて空腹のバイキンマンは、パン工場を目指すことにした。
パン工場へ戻ったアンパンマンは、新しい顔を作ってもらうところだったが、小麦粉が無くなった。
その時、難を逃れたクリームパンダが戻ってきて、みんなのピンチを知る。
空腹のみんなの為に、アンパンマンの顔を後回しにして、残りの小麦粉でパンを作り、皆を探しに行こうとすると、バイキンマンがパン工場へ乗り込んでくる。
顔が欠けているアンパンマンが応戦するなか、クリームパンダちゃんがヤギおじさんのもとへと急いだ。
その頃、空に飛ばされて絶望感が漂っていた皆のもとに、流れ星が現れ、バイキンマンの作った気球を消滅させる。
パン工場へと落ちたみんな。
みみせんせいの「みなさーん!アンパンマンを応援しますよー!」の声に合わせて、「アンパンマンのマーチ」をみんなで歌いながら、総力を合わせてアンパンマンの顔を作る。
アンパンマンはしょくぱんまんやカレーパンマンと力を合わせて戦う。
そして、遂にアンパンマンの顔が完成し、アンパンマンが完全復活した。
最期は、ダダンダンのバイキンパンチと三人のトリプルパンチがぶつかりあう。
ばいきん城へ飛ばされたバイキンマンたち。
空腹のバイキンマンは、ドキンちゃんがみんなのために作ったケーキを食べて笑顔になった。
物語の最後、絵本1冊目の砂漠で遭難している人のもとへ駆けつけたアンパンマンがパンを分け与えている姿を、遠くから見守るポエムさんで幕。
感想
本放送から2か月近く遅れての放送でしたが、なるべく事前情報は入れずに観ることが出来ました。
期待通りとても良いエピソードでした。
原作50周年&アニメ35周年記念のメモリアルエピソードとして、ABパート通して1話構成の長編になります。
物語はAパートでジャムおじさんの語りや、ポエムさん(やなせたかし先生と言ってもいい存在でしょう)とアンパンマンの問答を通して、ジャムおじさんやアンパンマン、ひいては作者・やなせたかしがアンパンマンという物語に込めた思いを感じさせる物語が展開されます。
続くBパートでは、食べ物を独り占めしようとするバイキンマンと、みんなを守るために戦うアンパンマンの姿を通して、いつもの面白さと同時に、アンパンマンやジャムおじさんの思いや行動が、一方通行ではなく、他者との良い循環をしている様子も描いていました。
30分丸々使って、ヒーローのオリジンに迫りながら、いつものアクション描写も織り交ぜた、豪華な特別編として面白かったです。
古谷徹さん演じるポエムさんの、感情を抑えた声で発せられる「アンパンマンのマーチ」の歌詞も、耳に心地よい刺激をくれました。朝から至福のひと時でした。
エンディングの「アンパンマンたいそう」の歌詞で、最後まで物語の余韻に浸りました。
アンパンマン好きだけでなく、老若男女全ての人にオススメできるエピソードだと思います。
観て思ったことや考えたことを、まとまりなく書くスペース
Aパートの問答では、アンパンマンというヒーローが何を大切にしているのかが描かれています。
アンパンマンがほとんどの時間を使っているであろう、日常のパトロールの様子を丁寧に描き、人にも動物にも分け隔てなくパンを分け与えるアンパンマンの姿は、正に困っている人を助けるヒーローの姿そのものでしょう。
アンパンマンのパンをあげるという行為は、あげればあげるだけ自分をすり減らすという様子を同時に描ける素晴らしい表現です。
しかし、アンパンマンは物理的にすり減ったとしても、精神的にはすり減っていません。それは、自己受容が出来ており、その行為を負担として受け取っていないからです。
しかし、物理的にすり減るのは間違いありません。
現に、アンパンマンを顔を分け与えることで、ふらふらして力も出ません。
これはアンパンマンだけでは解決できない問題です。
そこで、他者という存在に意味が出てきます。
アンパンマンも、その他の人たちも、他者からの見返りを前提とせず、相手が困っているから手を差し伸べる。この循環が自然と成り立っているから、あの世界は笑顔が多いのだと感じました。
Aパートのアンパンマンの解答だけを抜き取ると、自己犠牲と思う人もいるかもしれません。
しかし、本来「自己犠牲」という考えも、他者へ何かを奉仕するなら、同様に見返りがないと損をしているという心から生まれるものだと思います。
自己の望みを知り、その望みを満たしながら、社会と共存する。それはとても大切な行為です。
(当然ですが「やりがいの搾取」とは訳が違います。それはまた別の問題です。ここでは「自分」という主体が、いま生きている世界の中で、「自分」を持った人として、良い人生を生きるための基本の部分の話になります)
話しの中におけるバイキンマンは、人を空腹や飢えに陥れる象徴としての働きをしていました。
しかし、バイキンマンが空腹になった時に、ドキンちゃんがケーキをくれたように、行為としての悪ではあっても、存在としての悪な訳ではなく、等しく空腹の際には食べ物を分け与えるという行為は徹底していました。
ジャムおじさんや捕まった皆を助けた流れ星は、「そこにはいなくても、あなたを思う心」(作品的には視聴者や製作者など)、「見返りを求めない純粋な善意」などのメタファーなのかなと、少し思いました。
というわけで、思いついたことを、思いついたまま書いてみました。
深みもまとまりもない文章ですが、それでも最後まで読んでくれてとても嬉しいです。
ありがとうございました。