野村胡堂『銭形平次捕物控』第26話~第30話 紹介と感想
第26話「綾吉殺し」(『オール讀物』1934年3月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(二)八人芸の女』嶋中書店, 2004, p.120-158
あらすじ
恵大寺の墓場に美女の幽霊が出るため、植木屋幸助の声かけに町内の腕利き衆が退治に出かけることになり、面白半分に八五郎も参加した。
幽霊を取り逃した帰り、町内の男衆で唯一人来なかった地紙屋の綾吉の家に寄ると、当の綾吉が死んでいるのが発見された。
現場に落ちていた凶器から万七は石屋の力松を捕まえるが、八五郎は現場の状況から違和感を感じ、一晩中調べた後に平次に助けを求める。
紹介と感想
色男と弄ばれた女性の関係に、責任感の強い人間の心を描いた物語。
しかし、狭い責任感は、その枠から外れる人間を残酷に切り捨てていきます。
内容的には標準的な平次短編という感じですが、八五郎の活躍が多く、万七や清吉も比較的目立つ話であることが特徴となります。
レギュラー:八五郎、万七、清吉
投げ銭:なし
第27話「幻の民五郎」(『オール讀物』1934年月4号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(五)金の鯉』嶋中書店, 2004, p.317-350
あらすじ
梅屋敷と呼ばれる、大旗本・荻野左仲の別荘へ招待された平次と八五郎。この別荘には左仲の愛妾・お紋の方が暮らしていた。
お紋から、亡くなった本妻の弟・高木銀次郎から疎まれていること、銀次郎の差し金と思われる大泥棒・幻の民五郎から父親の形見の短刀と系図を守って欲しいと頼まれた平次。
幻の民五郎は、この1年程江戸を騒がせており、後には証拠を残さず、目撃者は必ず殺す手口から、平次も手をこまねいていたのだ。
その夜、幻の民五郎にしてやられる平次だったが、現場の様子を振り返ることで意外な真相に気づいていく。
紹介と感想
縮尻平次と言えども許せない凶悪な人物・幻の民五郎との対決を描いた一編です。
一度は捕縛に失敗した平次ですが、もちろんそれで終わる訳はありませんでした。
平次の観察眼や情報統合能力の高さが良く分かる話になっています。
物語に起伏もあり、面白い話しでした。
レギュラー:八五郎
投げ銭:なし
第28話「嘆きの菩薩」(『オール讀物』1934年5月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(六)結納の行方』嶋中書店, 2004, p.109-145
あらすじ
両国の小屋で最近話題の普賢菩薩が時々泣いているという噂を確かめるため、平次と八五郎は地獄極楽の見世物へ足を運ぶ。
この小屋は、普賢菩薩とお倉という美しい木戸番のおかげで大賑わいだった。
普賢菩薩は涙どころか襟も肩もぐっしょり濡れており、八五郎に水を舐めさせてみると塩辛い味がした。
それから三日後、亀沢町の路地で若い男が殺された。凶器はお倉の扱帯で、雪駄の片方もお倉の家から見つかったため、万七はお倉を捕まえた。
しかし、死体には袋叩きにされた痕跡もあることが平次には引っかかり……。
紹介と感想
普賢菩薩が泣いたのは、本当の自分の姿へ戻りたかったからかもしれません。
そんな、人を想う気持ちが犯罪へ繋がってしまった哀しい事件でした。
万七と出くわして嫌な者に逢ったと思ってしまう平次に、人の子なのだと可愛く思いました。
レギュラー:八五郎、笹野、万七
投げ銭:なし
第29話「江戸阿呆宮」(『オール讀物』1934年6月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(五)金の鯉』嶋中書店, 2004, p.244-281
野村胡堂/著 末國善己/編『奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選』PHP研究所, 2008, p.191-233
あらすじ
江戸で起こっている神隠し騒動。この数か月ですでに30人の娘が消えてしまった。
不思議なことに、これまでの全ての娘が抵抗したあとが無いのだ。
しかも、攫われた娘は暮らしにも困る貧乏人ばかり。
利助の縄張りでも神隠しが起き、お品は平次に協力して捜査に乗り出す。
平次達の調査の結果、神隠しがあったのは、巴屋三右衛門という呉服屋が施米をした町に限定されていたのだ。
果たして、神隠しの真相はいったい……。
紹介と感想
30人以上の娘が神隠しにあうという大掛かりな事件を扱った今作は、お品の活躍する話の一つでもあります。
神隠しの真相は、江戸川乱歩が好きそうな凄まじい物であり、結末の着け方もいつもと少し変わっていました。
終盤にあと一つ盛り上がりが欲しい所ではありますが、少し異色なネタとして楽しめました。
レギュラー:八五郎、お静、お品、万七(名前のみ)
投げ銭:なし
第30話「くるい咲き」(『オール讀物』1934年7月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(四)城の絵図面』嶋中書店, 2004, p.7-43
あらすじ
畳職人の丈吉が、畳針を眼玉に三寸も打ち込まれて死んでいた。
朱房の源吉は自殺で処理をしようとすると、偶然現場近くを通った八五郎が、殺しで調べたほうが良いと口を出す。
しかし、散々悪態をつかれただけに終わった八五郎は、平次に泣きついた。
平次は、お町という女と、娘と住んでいる大里玄十郎という浪人の両隣の人物を調べてみる。
そして、お町の家へ見張りの為に八五郎を残したが、次の日にはお町が井戸に身を投げて死んでしまった。
お町の姉のお勢まで加わって、事件は更なる波乱を迎えることになる。
紹介と感想
不可解な三つの死は、人間の情念が大きくかかわっていました。
不幸な連鎖で起きた事件を、縮尻平次が本領を発揮して事件を決着させます。
法のユートピアを描いている平次らしい物語だと思います。
今回の八五郎は結構いい観察をしたのに、上手く説得できず悪態をつかれただけなのが少し可哀そうでした。
レギュラー:八五郎
投げ銭:なし