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メグレ警視シリーズ長編48『メグレと首なし死体 Maigret et le Corps sans tête』(1955)紹介と感想

ジョルジュ・シムノン/長島良三・訳『メグレと首なし死体』グーテンベルク21, 2006(電子書籍)


あらすじ

ノオ兄弟の伝馬船のスクリューに男の片腕が引っかかった。
その後の警察の調べで、バラバラにされていた残りの身体も見つかったが、首から上だけが見つからない。
ラポワントを連れて捜査を行っていたメグレは、電話をするためにくすんだビストロに立ち寄った。
そのビストロの女主人は、メグレが何を話しても何の関心も示さず、必要以上の返事もしなかった。
女主人の印象が強く残ったメグレは、そこがオメール・カラとアリーヌ・カラが経営している店であることを知る。
オメールの姿が見えないことが気になったメグレは、ビストロを根城に捜査を行っていく。
次第に、アリーヌ・カラと関係のある男たちの姿も見え始め、容疑は固まりつつあるが、相変わらず死体の身元は分からないままであった。
果たして、死体はオメールなのか。事件の起きた背景はなんなのだろうか。


本の紹介と感想(ネタバレあります)

バラバラ死体が見つかるという衝撃的な幕開けの本作ですが、内容はいつもの第3期メグレの雰囲気で進みます。

メグレ物の中では比較的捜査の様子が描かれている方になりますが、アリーヌとの出会い事態が運が良かったとしか言えないものであり、偶然目を付けた人間が事件関係者だったというご都合主義の強いものです。
事件の背景も最終章で出てきた人間が全て説明してくれます。

しかし、作中でメグレが物理的な事象が問題ではないと、主題がそこにないことを明言しています。
では、何が主題なのかというと、アリーヌ・カラやデュードネ・パプがどんな人間なのか、この犯罪はどのような状況でどのような人が起こしたのかを描くことにあったのだと思います。

確かに、アリーヌやパプは印象に残る良いキャラクター付けがなされていました。
メグレの捜査に関心を示さず、裏ではアルコールを飲み、色んな男と肉体関係を持ちながら、パプとは老成した夫婦のような空気で居ることができるアリーヌ。しかし、それでもオメールと夫婦関係を続けたのはなぜなのか。それこそが、ミステリーとしての主題であり、しっかり物語を引っ張ってくれました。

ただ、この時期の名作群と比べると作品全体の印象が食い足りなく感じてしまいます。
多分、もう少しパプの掘り下げがあったり、最終章で出てきた人物が背景を話し始める以外の工夫があったら満足度が違ったと思いました。

50年代らしくレギュラーキャラクターも多く出ており、特にコメリオ判事の出番が多く、彼の形式主義的な性格とメグレの捜査方法の対比などが良く描かれていました。

個人的には、読んでいる間の興味は持続し、安定して面白いけど、もっと面白い作品がある。そのような評価に落ち着きました。
しかし、ムルスやコメリオなどのレギュラーもしっかり出てくる、いつもの物語を読みたい時には一定の満足感を得ることは出来る作品だと思います。
特にコメリオ好きは一読の価値があります。

 メグレは、転落する人たち、とくに好んで自分を汚し、たえず下へ下へと転落することに病的なほど夢中になる人たちは、いつの場合でも理想主義者なのだと、これまでにもたびたび、経験豊かな人をも含めて、多くの人々に納得させようとしてきた。

ジョルジュ・シムノン/長島良三・訳『メグレと首なし死体』グーテンベルク21, 2006
「第八章 サン・タンドレの公証人」より

映像化作品

ルパート・デイヴィス主演シリーズ(英)
 シリーズ2 第2話「The Simple Case」(1961) ※日本未紹介

ジャン・リシャール主演シリーズ(仏)
 第24話「Maigret et le corps sans tête」(1974) ※日本未紹介

愛川欽也主演 東京メグレ警視シリーズ(日)
 第10話「警視と首無し死体」(1978) ※未見

ブリュノ・クレメール主演シリーズ(仏)
 第5話「メグレと首なし死体」(1992)


メグレシリーズ 既読作品リスト

現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。

長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
 06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
☆09.男の首(1931)
 14.サン・フィアクル殺人事件(1932)

☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)

☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
〇48.メグレと首なし死体(1955)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
 73.メグレとひとりぼっちの男(1971)

中短編
 01.首吊り船(1936)
 03.開いた窓(1936)
 04.月曜日の男(1936)
 05.停車──五十一分間(1936)
 07.蠟のしずく(1936)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)
☆20.街中の男(1940)
☆23.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆24.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇25.世界一ねばった客(1946)
〇26.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆27.メグレ警視のクリスマス(1950)


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