見出し画像

野村胡堂『銭形平次捕物控』第31話~第35話 紹介と感想


第31話 濡れた千両箱(『オール讀物』1934年8月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ』嶋中書店, 2004, p.75-117
野村胡堂『時代推理小説傑作選 銭形平次捕物控 新装版』光文社, 2004, p.71-114

あらすじ
材木問屋・春木屋の主人が寄進した三千両が煙のように消え失せた。
笹野様に頼まれた平次は、万七の縄張りという事もあり八五郎を派遣する。
八五郎は寺の敷地から千両箱を見つけるが、中には砂利が詰まっているだけで、小判は見つからなかった。
平次は運ぶ途中に夕立で休憩をとった茶店と、その時分に起こった浪人と遊び人の喧嘩に目をつける。

紹介と感想
消えた三千両の行方が気になり、上手く興味を持続させている一編です。
また、珍しく殺人事件ではありません。

事件自体も面白く、レギュラーキャラクターも多数出演、しかも本文でも言われている通り久しぶりに投げ銭も観ることができるオススメの話しの一つです。

レギュラー:八五郎、お静、笹野、万七、清吉
投げ銭:あり

映像化
 
小金井勝・主演 「銭形平次捕物控・濡れた千両箱」(1935)
  監督:押本七之輔 脚本:土方喬

 大川橋蔵・主演 第7話「濡れた千両箱」(1966)
 北大路欣也・主演 第1シーズン 第17話「二度消えた千両箱」(1991)


第32話 路地の足跡(『オール讀物』1934年9月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ』嶋中書店, 2004, p.40-74

あらすじ
夜の柳原土手を歩いている平次と八五郎へ「お助けを」と飛びついてきた男がいた。
男は、先頃非業の死を遂げた遠州屋の甥・金之丞で、背後からいきなり斬られたと言う。
更に三日後、遠州屋のお内儀が屋根の上の物干しから落ちて死んだ。
果たして、事故か、殺人か。平次は事件を調べて行く。

紹介と感想
設定に奇をてらった部分はなく、物語に意外性もありませんが、丁寧に事件を描いているため、個人的には好きな話になります。

上にも書いたように、犯人はかなり分かりやすいのですが、平次が犯人を指摘するまでの情報の出し方が丁寧なので、納得感があります。

レギュラー:八五郎、お静(地の文のみ)
投げ銭:なし


第33話 血潮の浴槽(『オール讀物』1934年10月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(三)酒屋火事』嶋中書店, 2004, p.83-114

あらすじ
元飯田橋の丁子風呂で行われた近江屋の一人娘お新殺し。
二合半坂の市蔵親分は、旗本の妾でお新の直前に入っていたお才を捕まえた。
市蔵の縄張りという事で乗り気じゃなかった平次だが、近江屋の主人に頼まれ乗り出すことにした。
誰もいない女湯の中で行われた殺人の真相はいかに……。

紹介と感想
事件の状況は興味深いのですが、その興味深さを解決の面白さまで引っ張れなかったかなという感じでした。

人の動きや証言などは丁寧に描かれていると思いますが、事件の背後に隠されている人間関係の出し方や、平次が一日悩んでから答えを出す部分の必然性の薄さが引っかかります。

レギュラー:八五郎、お静、笹野
投げ銭:あり


第34話 謎の鍵穴(『オール讀物』1934年11月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(三)酒屋火事』嶋中書店, 2004, p.190-223

あらすじ
目黒の栗飯屋で食事をしていた平次と八五郎。
八五郎が一人でいる時に若い女性が「銭形の親分へ渡してください」と結び文を八五郎に握らせた。
恋文だと思った八五郎は、平次の紙入へ入れてしまう。
しかし、その夜に叔母さんの家へ帰ろうとしている八五郎は三人の男に襲われる。
更に次の日には、「八さんと許嫁の契りを交わした」と、叔母さんの家にお吉という女が乗り込んで来た。
果たして、結び文にはどんな秘密が隠されているのだろうか。

紹介と感想
八五郎の叔母さんが初登場のエピソードなだけあり、八五郎が比較的目立つエピソードになります。
事件の調べはもっぱら目黒の兼吉と八の二人が基本的に行い、平次が動き出すと事件は素早く解決へと至ります。

ミステリー的には暗号物になります。
尖った魅力がある話ではありませんが、一つの短編の総合力として好きな話です。

レギュラー:八五郎、お静、八五郎の叔母さん
投げ銭:あり


第35話 傀儡名臣(『オール讀物』1934年12月号)

野村胡堂『銭形平次捕物控(三)酒屋火事』嶋中書店, 2004, p.150-189
野村胡堂『銭形平次捕物控 傑作集 一 陰謀・仇討篇』双葉社, 2019, p.37-81

あらすじ
のんびり詰将棋をしていた平次と八五郎のもとへ、妖艶な年増が「至急相談したい」と書かれた名無しの手紙を持参してきた。
平次は八五郎を一人で使いに出すが、八五郎が戻ってきたのは戌刻の鐘が鳴り終わった後だった。
八五郎が話すところによると、散々方々を歩かされた上に、天王寺の前で侍に因縁をつけられ投げられてしまったとのこと。
話を聞いた平次は、夜が遅いのも気にせず飛び出して行った。
この不可思議な出来事は、四千五百石の大身、安倍家を揺るがす大事件の幕開けだった。
残された時間は僅か、夜が明けるまでに平次は事件を解決できるのか。

紹介と感想
忠臣・石田清左衛門の姿が印象に残る話です。
事件は、だらしない当主へ真面目が故に小言も多い清左衛門を陥れるための事件でした。
しかし、真の悪はそのような動機で収まる訳が無かったのです。

平次が時間に関係なくスピーディーに動いたおかげで、無事に解決した事件。平次の岡っ引としての責任感の強さと、短い時間でも冷静に推理を出来る頭の良さが良く表れていました。

レギュラー:八五郎
投げ銭:なし

映像化
 北大路欣也・主演 第2シーズン 第15話「封印の罠」(1992)


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集