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ジェラール・ドパルデュー主演『メグレと若い女の死』Maigret(2022)紹介と再見感想

公開当時に劇場で観た今作。当時は原作を読んで期待値を高めにしていたため、原作の映像化としては首をかしげる内容に「雰囲気は良いけど、原作の良さを全く活かしていない」と大分厳しく評価をしてしまいました。
それは今でも間違えていないと思いますが、今回は原題である「Maigret」を意識して観ることが大切だなと思ったので、再見しての感想を残しておきたいと思います。


あらすじ

貸しドレスを着た女は、酒をひっかけた後にジャニーヌとローランの婚約式へ行き、二人と言い争いになった。
その後、ヴァンティミーユ広場で何か所も刺され殺されているのが発見されるが、身許も分からない。
メグレは、女の身許を捜査中に、ベティという女性が万引きをする現場を止める。
自身の健康状態も気になるなか地道に捜査を続けるメグレは、パリで生きる多くの人たちと話す中で事件の真相へと近づいていく。


紹介と再見感想

大筋の設定を原作より借りていますが、肉付けは原作とは別物になるので、鑑賞の際には原作を意識しない方が良い作品です。

今作のメグレは、ポール医師に体調の心配から休暇を取るか早期退職を勧められ、煙草も禁止されています。
メグレ自身も自分の体調を気にして禁煙を守り、夫人からも体調の心配されています。

そんな老いを感じる状況のなか、若くして死んだ女の死を調べる途中で出会った、ベティという夢見てパリへと出て来た少女と交流を深めていきます。

また、それ以外にも若い女性との交流が所々で描かれており、田舎から生存競争が厳しい都会に夢を求めて飛び出し遮二無二生きている若者と、老いて酸いも甘いも知り尽くしているが自身の健康が心配で足取りの重いメグレとの対比となっていました。


メグレ自体の捜査は、原作の設定を利用している部分も多くあります。
この捜査の際に歩き回る50年代パリの風景が、今作で一番好きな部分でした。
雰囲気たっぷりに撮られた風景は、庶民が生きるパリの下町をリアルに描き出していたと思います。

そんな、事件と若者を通してメグレ自身を描く物語なので、基本的にメグレは単独操作の事が多く、メグレ班は全体的に影が薄くなっています。もちろんロニョンは出てきません。


メグレ自身を描く物語としては一定の満足感があるのですが、問題は事件を改変したせいで真相が明かされて出てくるドラマの意味が変わってしまい、原作の無常さの方が物語としてのテーマにあっているのではないかと思ってしまう事だと思います。

もちろん、原作が大好きすぎる部分でバイアスはかかっていると思いますし、うまくテーマを取れていないだけかもしれませんが、どうしても殺人周りが本作で描きたいドラマと上手くハマっていなく、原作から大きく変わった2つの部分が繋がりきらずに作品内に置いてある感じがしてしまいます。

ベティ周りも、ルイーズと重ねて自分の娘のように心配するメグレを描いていることは分かるのですが、変に事件部分を改編しない方が物語に馴染みやすかったのではと思ってしまいます。


老いを意識した人間と未来を夢見る若者の交流を殺人事件の捜査を媒介に描く雰囲気たっぷりのドラマとして、観ている間は一定の面白さがありますが、物語を考え出すと手放しでは褒められない、そんな作品になります。

また、作品テーマ的に単発作品だとは思いますが、せっかくなのでもう一作位は観てみたいなとは思っています。


映画概要

原作:ジョルジュ・シムノン『メグレと若い女の死』(1954)
脚本:パトリス・ルコント、ジェローム・トネール
監督:パトリス・ルコント
製作:フランス
時間:89分

キャスト
 メグレ警視/ジェラール・ドパルデュー

   ベティ/ジャド・ラベスト
 ジャニーヌ/メラニー・ベルニエ
ヴァロワ夫人/オーロール・クレマン
  ルイーズ/クララ・アントゥーン
  カプラン/アンドレ・ウィルム
 ポール医師/エルヴェ・ピエール
 ラポワント/ベルトラン・ポンセ
ジャンヴィエ/ジャン=ポール・コマール
 メグレ夫人/アンヌ・ロワレ


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