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笹沢左保『東へ走れ男と女』(1967)紹介と感想
笹沢左保『東へ走れ男と女』徳間書店, 1983
前から読みたいと思っていた笹沢左保。読みたいと思っていた本とは違いますが、病棟の本棚に本書があったため手にとってみました。
ドラマ化作品は何作か見ていますが、著者の本を読むのは初になります。
あらすじ
大和田順、30歳。妻は浮気の末に学生と心中し、会社に復帰すると後輩が持ち逃げした60万円の責任を取って返済しろと会社から求められる。
何もかも嫌になった大和田は、会社を辞めると決心した夜に、謎の女に声をかけられ田園調布にある結城仙太郎という男の家へ案内された。
玩具屋で財を成した結城は、大和田が死んだ息子に似ているため、ある仕事を頼みたいとのことだった。
それは、10年前に結城と4人の仲間達で盗み取った30億円相当のダイヤの引き渡しに、病気の自分の代わりに行って欲しいとの内容だった。
更に、家に帰ると静岡から家出してきたと言う曽我辺鞠江という女が、チンピラから逃げて来たとアパートの廊下へ入り込んでいた。
大和田は、美しい鞠江に惹かれて家に匿う事を承諾、結城の話しも受けることにした。
結城の息子・忠男になりすまし、結城の昔の仲間や代理の者達と鹿児島へと飛び立った。
しかし、一筋縄ではいかない旅は、次々と同行者を変えながら、思いもしなかった方向へ向かっていく。
紹介と感想
悪人ばかりが集い、旅情感たっぷりに連続殺人を描いたサスペンス小説です。
恒文社の週刊誌『F6セブン』1966年8月6日号~1967年4月22日号まで連載後に、同年単行本化されました。細かく話が動いていく感じや、濡れ場の多さにその片鱗を感じます。
あらすじからも分かる通り、そもそも犯罪で手に入れたダイヤを引き取りに行くという筋立てなので、最初から善人が集うとは思えない旅ですが、それにしても悪人が勢揃いのため、リーダー格である宝樹が善人に見えてくるという錯覚も受けてしまいました。
登場人物の誰もが碌なことにならないことは目に見えてますが、気持ちの良いくらいに酷い目にあっていきます。
誰もが自らの欲望を抑えきれず、その究極が人間が持てるだけの欲望を詰め込んだ異形な怪物のような造形の黒幕だったと思います。
最後には意外な真相が明かされますが、あまりそこに注力していないのか、読者にもメタ的に予想できてしまうものになっていました。
また、どうしても話の展開にやや強引なところがあったり、大和田が一般人にしても女にだらしなくないかと思ってしまい、手放しで面白いという作品ではありませんでした。
しかし、読んでいる間のリーダビリティーは高く、実際に連載で読んでいたとしたら、なんだかんだと楽しんで最後まで読んでいたのではないかと思うだけの力がありました。
大和田がやたら“男”って感じの描写だったりと、現代から見たら価値観や描写に時代を感じてしまう所も多いですが、何も考えずに悪党達が右往左往する様を楽しみたい時には、今読んでも楽しめ、欲望に忠実に生きすぎるのも気を付けないといけないなと読み終われると思います。