メグレ警視シリーズ長編62『メグレと幽霊 Maigret et le Fantôme』(1964)紹介と感想
ジョルジュ・シムノン/佐宗鈴夫訳『メグレと幽霊』河出書房新社, 1982
あらすじ
手がけている事件に目途をつけ、深夜に帰宅したメグレは眠りについた。
翌朝、夜勤だったラポワントの訪問により、予定の時刻より早く起されることになる。
ラポワントは、十八区の刑事・ロニョンが銃で撃たれ生死の境をさまよう重症だと知らせに来たのだ。
ロニョンは、最近夜勤の勤務を希望し、十日ほどマリネット・オージェという若い女性と一緒に居ることが多かったようだ。
ロニョンが撃たれると同時に、姿が見えなくなったマリネット。
ロニョンが密かに事件を調べていたのではと考えたメグレは、十八区の刑事たちと共に捜査を開始する。
撃たれた直後、「幽霊……」と呟いたロニョンの伝えたかった事とは……。
本の紹介と感想(ネタバレあります)
ロニョンは撃たれて意識不明となっていますが、それでも哀れさと人の良さを感じさせる事件でした。
若い女性の部屋へ入っても、変な態度は見せずに、父親のように親切な態度で接し、部屋を使わせてくれるお礼としてチョコレートやすみれの花束を贈る。マリネットの方も、そんなロニョンに心を許して、見張りの為に部屋を提供する。
そんな奇妙な関係を想像すると、心温まると同時に、普段のロニョンの生活を考えて少し哀しくもなるのでした。
事件はロニョンが撃たれてからほぼ24時間で解決しており、メグレの長編の中でも最速で解決した事件の一つになると思います。
だからと言うわけでもないと思いますが、第3期メグレとしては短めの全7章構成の物語は、大きな見どころがなく、解決まで向かいます。
老年期に入ってから若い娘に愛情を抱き犯罪に巻き込まれた男と、欲望を交えないロニョンとマリネットの関係の対比も描かれていますが、事件関係者の描写はそこまで深くなく、事件自体もそこまで凝った内容や魅せ方ではありませんでした。
パイク主任刑事が再登場したり、メグレ夫人とロニョン夫人が遂に対面するなど、シリーズ物としての楽しさが本書のメインです。
ロニョン夫人が夫の容態など関係なく、いつものように自分の事だけを考え周囲の人間に愚痴る様子は健在で、ロニョン夫妻の哀しさが伺えます。
ロニョン夫人の相手をする事になったメグレ夫人ですが、そのおかげでメグレの捜査に役立つ話をできていると思っている場面はかわいかったです。
知っている限り、ロニョンが出る最後の話になるはずですが、最後に少し報われたようで嬉しかったと同時に、それでも変わらない部分に「ロニョンがんばってくれ……」という気持ちが強くなります。
ロニョンがいなかったら個人的には辛めの評価になっていた話です。
ロニョンの存在があると話の評価が一段階あがることを再認識できました。
メグレシリーズ ロニョン登場作品
「メグレと無愛想な刑事」(1947)
『モンマルトルのメグレ』(1951)
『メグレ警視と生死不明の男』(1952)
『メグレと若い女の死』(1954)
『メグレ罠を張る』(1955)
『メグレと優雅な泥棒』(1961)
『メグレと幽霊』(1964)
映像化作品
ジャン・リシャール主演シリーズ(仏)
第15話「Maigret et le fantôme」(1971) ※日本未紹介
愛川欽也主演 東京メグレ警視シリーズ(日)
第19話「警視と幽霊」(1978) ※未見
ブリュノ・クレメール主演シリーズ(仏)
第12話「メグレと幽霊」(1994)
メグレシリーズ 既読作品リスト
現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。
長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
☆09.男の首(1931)
14.サン・フィアクル殺人事件(1932)
☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)
☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
〇48.メグレと首なし死体(1955)
62.メグレと幽霊(1964)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
73.メグレとひとりぼっちの男(1971)
中短編
01.首吊り船(1936)
03.開いた窓(1936)
04.月曜日の男(1936)
05.停車──五十一分間(1936)
07.蠟のしずく(1936)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)
20.愚かな取引(1939)
☆21.街中の男(1940)
☆23.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆24.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇25.世界一ねばった客(1946)
〇26.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆27.メグレ警視のクリスマス(1950)
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