レディファースト
数年前に建てられた新病棟のとなりに取り残されたかつての4F病棟。エレベータもモーター音が時々大きな音を立てて軋み、床材のビニールは波を打ったようで剥がれが目立つ。気をつけないと足がとられて転んでしまいそう。
ここが私の今の職場だ。
出勤時、上役とエレベータ前で顔を合わせた。
「おはようございます」
笑顔であいさつ。エレベータの到着に気づいた別の女性職員が廊下の先から小走りで駆け寄ってくる。
「急がなくても大丈夫ですよ」と、ひと声かけた。
上役と駆け寄った職員を先にエレベータへ通したところ、
「お!レディファースト。大事なことですね。いいですね」と上役。
一瞬意識が遠のいた。
褒め言葉で言ってくれたのだから・・・と心の中で自分自身の背中を支えた。
「はは、そうですかね〜」と曖昧なひと声返事をすることが精一杯だった。
私はレディファーストしたつもりはないし、男性だから、女性だから、と役割を決めて自分自身も周りも縛りたくなかった。そもそも周りが私を男性扱いすることも、何となく居心地が悪かった。
それと同時にこの違和感自体を大事に受け容れたいいと思った。
デスクについてから飲んだコーヒーがおいしかった。
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