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馬の耳に念仏、イタリア人に交通ルール

9月の頭のモンツァは世界の注目を集める街だ。この日ばかりは、お祭りのように街は活気づく。子供向けのイベントは沢山あるし、市役所前にはステージが置かれ、F1の実況中継がなければバンド演奏もある。服屋はいつも置いてる服はどこ行ったとばかりF1チームのユニやTシャツ、グッズがぎっしり。大通りには露店が並び、至る所にフェラーリの旗がはためく。「ホーム・オブ・フェラーリ」だなんて高々と叫んているが、いやいや、フェラーリをここで製造してるわけでもなかろうにとモンツァ民的には思うのだ。思うのだが、祭り気分に当てられて、モンツァ民としても心が踊る。そして余計な散財をしてしまう。

さて、我が家の隣にはバス乗り場がある。バスターミナルというには大きくないし、バス停というには大きすぎる。ここは空港行きのバスが停まったり、普通のバス路線も停まったりする、広い道ながら一方通行の道、まさにバス乗り場。本当はバス以外通っては駄目な道なんだが、まぁ馬耳東風、馬の耳に念仏、イタリア人に交通ルールというように、大通りに出やすいので私も含め無視して通るわけだが。

そんなバス乗り場ですら、今回のF1期間はフェラーリクラブにジャックされていた。いつもはさすがに停車してる車は殆どない「道」である。そこにズラーッとフェラーリが新旧、赤青黒等と並んでいる様は圧巻だった。市の中心部からは遠くないとはいえ歩いて5分くらいの場所だ。こんなバス乗り場ですら、イベントの場所になるとは、お祭り騒ぎの熱気はここまで来たかと驚いた。

しかし驚くのはまだ早い。しばらくするとバスがやってきた。バス乗り場だから当然である。そう思ったらバスの運転手、クラクションを鳴らし始めたのだ。

ん?

しばらくクラクションが鳴ると、さてそこかしこで駄弁っていたフェラーリクラブのオーナー達は、自分の持ち車に乗り始めた。リーダーみたいな女性が音頭を取る。そして列が大通りに向けて動き始めたのだ。

黄線の駐停車禁止欄にズラーと並んでいたのが良く分かる…

つまり、このクラブは何ら許可も取らずにこのバス乗り場に陳列していたのだ。あまりの堂々とした様に笑ってしまった。そして30台はあろうというフェラーリが、大通りに出ようと皆並ぶ。イタリアナンバーだけでないのが幸いか、それともドライバーのモラルがやはり高いのか、フェラーリがキレイな列を為して通りに出ようとしている様は、交通ルール喧嘩上等のイタリアらしくはなかった。

さらに面白いのが、さっきまでクラクション鳴らしていたバスの運ちゃん、運転席に座りながら普通に自分のスマホを取り出して、そのフェラーリ達の様を写真に収めている。制服をビシッと着こなし、帽子も1ミリの傾きもなくかぶる日本の運転手とは、何たる違いだろう。でも、しょうがないじゃないか。お祭りだもの、非日常なんだもの。皆、この空気を楽しんでいるのだ。

イタリアという国は、ムカつく事も多いのだが、こういった寛容さに溢れている国だ。これはきっと「たけしの挑戦状」を攻略本なしで楽しむくらい、余裕を持って生きていく必要があるのだ。

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