【とっても簡単に医科学トピック紹介6】PD-1/PD-L1阻害剤と他の治療法を組み合わせたリンパ腫の臨床研究 ~論文概要と基礎知識~
元論文はこちらです:Katsuya, H.; Suzumiya, J.; Kimura, S. Clinical PD-1/PD-L1 Blockades in Combination Therapies for Lymphomas. Cancers 2023, 15, 5399. https://doi.org/10.3390/cancers15225399
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PD-1とは?
PD-1は「プログラム細胞死タンパク質1」と呼ばれ、主にT細胞と呼ばれる免疫細胞の表面に存在します。
PD-1の役割は、免疫系が正常な細胞を攻撃しないようにするためのいわゆる「ブレーキ」の役割を果たします。このような働きをするタンパク質は免疫チェックポイントと呼ばれ、自己と非自己を区別し、免疫反応を制御しています。つまり、PD-1は免疫チェックポイントとして、免疫系が私たちの自分自身の体を攻撃しないように調整しているのです。
PD-1とPD-L1
PD-1はT細胞の表面に存在し、PD-L1(PD-1リガンド1)と結合することで免疫反応を抑制します。がん細胞は、このPD-L1を利用してT細胞からの攻撃を回避します。
がん細胞の逃避
多くのがん細胞はPD-L1を生成し、これがPD-1と結合することでT細胞の攻撃を回避します。これが、がんが体内で成長する一因となります。
免疫チェックポイント阻害剤とがん治療
PD-1/PD-L1の免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1の結合を阻害する薬剤です。これにより、PD-1/PD-L1結合によるT細胞のブレーキ(免疫抑制)を外し、T細胞ががん細胞をより効果的に攻撃できるようになります。免疫チェックポイント阻害剤の多くは抗体(特定の物質(抗原)に対して特異的に結合するタンパク質のこと)で、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害剤の場合は、PD-1あるいはPD-L1にこの抗体が結合することでPD-1/PD-L1結合を阻害します。
PD-1またはPD-L1に対する抗体を用いた免疫療法は、多くのがんにおいて宿主の抗腫瘍免疫(がん腫瘍に対する免疫反応)を回復させることができます。これにより、過去10年間で多くのがん種に対する標準治療となりました。しかし、特に古典的ホジキンリンパ腫や原発性縦隔B細胞リンパ腫を除いて、他のリンパ腫に対する効果は未だ限定的です。
このギャップを埋めるために、研究者たちはPD-1/PD-L1阻害剤と他の治療法の組み合わせ(併用療法)による、さらに効果的な治療法を模索しています。最新の臨床試験では、初回治療や再発・難治性のリンパ腫患者に対してこれらの併用療法を試みることで、いくつかの有望な結果が得られています。
この論文では、これらの臨床試験の成果を総合的に検討し、リンパ腫治療における新しいアプローチを提案しています。
ノーベル賞受賞とがん免疫療法の進展
2018年12月10日、京都大学の本庶佑氏と米テキサス大MDアンダーソンがんセンターのジェームズ・アリソン氏が、免疫チェックポイント阻害薬の開発によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼らの研究は、免疫系ががん細胞を攻撃する能力を高める新しいがん治療法を確立しました。
免疫チェックポイントとPD-1の発見
本庶氏は免疫系の「ブレーキ」として働くPD-1を発見し、この分子を抑制することでがん細胞を攻撃する力を引き出すことができることを示しました。この研究は、「ニボルマブ(オプジーボ)」などの抗PD-1抗体として実用化され、多くのがん患者に恩恵をもたらしています。
臨床試験と今後の展望
新しい治療法の有効性と安全性を確立するためには、臨床試験が不可欠であり、日本でも臨床試験の文化を根付かせることが重要です。現在、乳がんを含む様々ながんに対して免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が進行中です。
今回は以上です。次回もよろしくお願いします。