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「強い責任論」から「弱い責任論」へ - 「生きることは頼ること」を読んで
「自己責任」という言葉が、日本でもオーストラリアでも日常的に使われているのを耳にします。「自分のことは自分で」「自分の選択には自分で責任を」といった考え方は、一見すると理にかなっているように思えます。
しかし、戸谷洋志さんの「生きることは頼ること」という本に出会い、この「自己責任論」について深く考えさせられました。例えば、道を歩いていてつまずいて転んでしまったとき、「自分の不注意が原因だから、誰かに助けを求めるべきではない」と考えてしまうことがあります。でも、実際には誰かが手を差し伸べてくれれば、それを受け入れる方が自然なのではないでしょうか。
人間は本来、赤ちゃんの頃から誰かの助けを借りて生きています。食事も、教育も、仕事も、すべて誰かとの関わりの中で成り立っています。まるで一本の木が、根で繋がった菌類の助けを借りて養分を得ているように、私たちは目に見えない形で互いに支え合って生きているのです。
ではなぜ、「自己責任論」がこれほど広まったのでしょうか。戸谷洋志さんによれば、その背景には新自由主義という考え方があります。国の財政負担を減らすため、「すべては個人の責任」という考えが推し進められ、その結果、人々は必要以上に「自分で何とかしなければ」と追い込まれるようになったというのです。
これに対して戸谷洋志さんは、「弱い責任論」という新しい考え方を提案しています。これは、人間を完璧な強者としてではなく、誰もが傷つきやすく、誰かの助けを必要とする存在として捉える考え方です。例えば、電車で具合の悪そうな人を見かけたとき、「自己責任だから関わらない」のではなく、「私も同じように困ることがあるかもしれない」と想像し、声をかけることができる。そんな社会を目指すものです。
ただし、これは「人間は弱い存在だから何をしてもいい」という無責任な考えとは異なります。むしろ、私たち一人一人が不完全な存在だからこそ、互いを大切にし、支え合う必要があるという考えです。戸谷洋志さんは次のように述べています:
「私たちはいつの間にか、『傷ついてはいけないもの』と『傷つけても構わないもの』を、想像の中で区別してしまう。それによって傷つけても構わないものに対して責任を感じなくなり、それどころか、そうした人に対する暴力に加担してしまう。しかし、それは差別である」
「そうした差別から距離を取るために、私たちは常に自分のイメージを拡張し、この世界に傷ついても構わない人間など、1人もいないという事実と向き合わなければならない」
さらに戸谷洋志さんは、「弱い責任」について次のように説明しています:
「弱い責任とは、自分自身の傷つきやすさを抱えた『弱い』主体が、連帯しながら、他者の傷つきやすさを想像し、それを気遣うことである。そうした責任を果たすために、私たちは誰かを、何かを頼らざるを得ない。責任を果たすことと、頼ることは、完全に両立する」
この考え方は、社会的な地位や権力の有無に関係なく、すべての人に当てはまります。どんなに偉い王様であっても、社長であっても、総理大臣であっても、何か問題が起きたときに、一人ですべての責任を取ることなど実際には不可能です。むしろ、自分の属している集団や組織と力を合わせながら問題に当たらなければ、どんな問題も前進することはできないでしょう。
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例えば、企業で重大な問題が発生した場合、社長が「すべては私の責任です」と表明することがあります。しかし、その問題の解決や再発防止には、社員一人一人の協力や、時には外部の専門家の知恵も必要となります。これは、責任逃れではなく、問題に対してより実効性のある対応をするために不可欠なプロセスなのです。
このような考え方は、たとえ救済する側の人間であっても、救済される側の人間であっても、共に傷つきやすく、弱く、他者に頼らざるを得ない存在であるという人間観に基づいています。そしてこの視点は、「誰が責任を取るか」という問いから、「誰に対してどのように責任を果たすか」という、より建設的な方向への転換を促しています。
人々を分断し、対立を深めかねない強い責任論に代わって、このような弱い責任論に基づく相互理解と協力が広まれば、より豊かで思いやりのある社会が実現できるのではないでしょうか。私たちは皆、完璧ではない存在だからこそ、互いの弱さを認め合い、支え合いながら生きていく必要があるのです。
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