『超芸術トマソン』を読んで、発見と同定の喜びを思い出す
どうもMr_noiseです。
皆さんはスマホの中の写真を見返すと、何でこんな写真を撮ったんだっけと思うことってないでしょうか。
僕はたびたびスマホの中身を見てはナンダコレと思います。そのたびに撮った理由を思い返し、答えが出たものについてはnoteに投稿したりしています。直近だと下記の写真。どうも看板の意味が分かった気になって撮ったらしい。
今でこそnoteに投稿するために写真を撮ることもありますが、以前は誰に見せるでもなくSNSに投稿するでもなくただただ撮っていました。
別に写真が好きなわけでもないのに。
そんな自分の行動を思い返すにどうも僕が写真を撮る理由は自分の外にではなく、自分の中にある個人的なものらしい。
個人的な理由ってなんだと考えたときに思い出したのは赤瀬川原平の『超芸術トマソン』でした。
『超芸術トマソン』は著者が仲間と一緒に歩いているときに、不思議な階段を見つけるところから始まります。その階段は道路のそばにあり、隣にある建物にくっついていて設置されている小さなもの。7段上がってもそこに建物の入り口があるわけでもなく、ただまた7段降りるだけ。言うならば無用の階段です。しかしどこか存在感があり、どうも気になる。その後、今度は門の内側がセメントで埋められているために通り抜けられない門を見つけ、先ほどの階段との無用さと存在感という共通点を見出し、これらの物件を超芸術トマソンと名づけます。
はっきりと申し上げます。これは、
「超芸術」
というものであります。芸術とは芸術家が芸術だと思って作るものですが、この超芸術というものは、超芸術家が、超芸術だとも何とも知らずに無意識に作るものであります。だから超芸術にはアシスタントはいても作者はいない。ただそこに超芸術を発見する者だけがいるのです。
赤瀬川原平『超芸術トマソン』東京:筑摩書房 1985年
トマソンというのはその当時のジャイアンツの4番打者で、空振りばかりしていた助っ人外国人選手の名前から名付けたそうな。打たない=無用だが、お金をかけてジャイアンツが保存している状態が超芸術と似ていることから「超芸術トマソン」と呼ぶことにしたらしい。
赤瀬川源平が連載していた『写真時代』という雑誌には、道端の無用な物体を「超芸術トマソン」と名づけて以来、全国からトマソン発見報告の写真投稿がされるようになっていきます。
上記写真は僕がトマソンだと思ったもの。この場合どちらの扉がトマソンなのだろう?
トマソンの発見報告をする投稿者の目的は同定の楽しみだと思います。不要物にトマソンという素敵な意味と名前が付けられることで、その面白さを知り、自分も同じものを探したくなる。普段の日常に新しい意味が生まれ、道端にある無用な突起を再発見することになる。
同定という言葉は科学でよく使われますが、生物学だとある生物の種名を探すというような意味です。一番身近な例だと、キノコ狩りなどですかね。取ってきたきのこを図鑑などを用いて名前を調べ、食べられるきのこか見定めていく。これも同定です。
僕らは子供のころ、いつも同定を楽しんでいたはずです。四輪で動く大きな鉄の塊を「ぶーぶー」と呼んで、外に出るたびに新しい姿の車に出くわしては「ぶーぶー」だと同定して、発見し、喜んでいました。
しかし大人になっていくにつれ、子供だった僕らは世界のあらゆるものにはあらかじめ誰かが名前を付けていることを知ります。「ぶーぶー」ではなく、自動車で、細かく言えば、2トントラックで、消防車で、タクシーで、レクサスで。誰かが付けた名前を覚え、知らないことは恥や悪だと教えられ、発見や同定の楽しみも知識の蓄積という膨大で無制限な作業の中で忘れてしまうのです。
僕がなぜ写真を撮るのかという理由を考えると、たぶん幼いころの自分のように発見と同定を楽しみたいからだと思いつきました。自分で気にかかる何かを発見して写真を撮り、これは何で気になったんだろうと内省し、写真に名前を付ける。似たようなカテゴリーの写真はこの間撮ったあれと同じだと同定する。この無邪気な喜びのためにたぶん僕はたまに写真を撮っているのだと思います。つまり撮ることと同じくらい写真に名前や意味をつけることを楽しんでいるのです。
このように考えていくと、instagramの流行も今更ながらわかる気がしました。ハッシュタグをつけて同じ価値観に属するものを発見し、同定し、発表する楽しみが写真撮影、そして写真投稿にはあるのかもしれません。
さすがにそうだと言い切るほどの自信はありませんが。
少なくとも僕は幼いころの「ぶーぶー」と指さし笑う楽しみを忘れられぬ人間で、撮影という形で発見したけど同定していなかった写真がスマホにあふれていたのだと思います。
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