不完全なそれは動物となった
ネットで文庫本を注文したんです。
数日で届いたところまでは良かったんですが。小包をあけると一瞬、身体が熱くなりました。本の表紙カバーが角から1センチほど破れ、前方に向かって折れていたんです。どうしてこんなことになっているのだ。
梱包は問題なく外装も綺麗な状態で届いたので、これは元々破れていたものを包んだ or 包むときに破れてしまったということになるでしょう。
そんな、、、ひどい。書店で本を選ぶときに、表紙が破れている本はまず買おうと思いません。もしそれが最後の一冊だったとしても、破れていたら別の店で買うことを選びます。だって破れているんだもの。中古美品の方がマシではないか。
梱包を担当した君、配慮が足りないぞ。商品の到着を楽しみにしていたお客様がどんな気持ちになるのか、想像できなかったのかね。こんなにあからさまに破れているのだから、気がつかなかったとは言わせないぞ。
しかし、やり場のない思いを解消する手段はあります。返品すればいいのです。こんな店頭に出したら売れないような状態のものを送ってきやがって。こんな商売、システムが許しても僕が許さない。
人間の良心と正義についての脳内会議が行われ、とりあえず僕の感情は正しいという結論に至りました。そして返品を半ば決断しつつ、表紙カバーの破れた文庫本を手に取りました。
いったいどこで破れたんだろう。僕は見たこともない文庫本の製造ラインを思い浮かべました。工場みたいな空間に整列する巨大な印刷機。シャカシャカシャカシャカと大量の紙が絶え間なく高速で流れていく。文字を印刷して重ねて裁断して、糊付けも必要か。表紙カバーも印刷して裁断して、折って本をくるむ。そうやってきっかり同じように製造された本たち。きっとその後は作業員によってダンボールに隙間なくぎゅうぎゅうに詰められ輸送され、各中継地点で小分けにされながら世界に散らばってゆくのだろう。
目の前にある1冊はその中の1冊なんだと、そう思いました。その中の1冊であり、僕の手の中にやってくるまでのどこかで破れ折れてしまった1冊なのだと。
そう思考が落ち着いたところ、ふと見るとそれは1匹でした。仲間たちとは耳の色が少し違うけれども、だけどそこが愛らしい。よくここまできたね。
そして僕はこころよくページをめくりはじめました。