#121. “天気”とは晴れのこと?雨のこと? [مَوْسِم/मौसम/Monsoon]
「天気ですね」と話しかけられたら「晴れですね」と言われていると思うだろう。「天気」は本来、移り変わる気象状態のことを指すので「天気がいいですね」が正しいはずだが、なぜ「天気」で「晴れ」の意味になり得るのだろう。それは「天」に「お天道様」つまり「太陽」の意味を感じているからなのでは?と思ったりもする。
同じように、本来は1つの気象状態に限定されたものではなく、天候全般を指すのに、特定の天候と結び付けてイメージされるものがある。それは「モンスーン」だ。
「季節風」という日本語が指すように、monsoon (アラビア語 مَوْسِم mawsim) の本来の意味は「季節」だ。語根 و س م (w s m) には「適した」という根底の意味があり、「その時に適した」「その時がそれだと分かる印」のことを指す。つまり「時期ごとに特徴的な風や雲の状況」のことだ。アラビア語 مَوْسِم mawsim は特にハッジ(メッカ巡礼)に適した時期のことを指したりもする。
ハッジ(メッカ巡礼)に適した時期はイスラム暦における12番目(最後)の月だが、イスラム暦は太陽の位置とは関係なく完全に月の動きに合わせた暦なので、グレゴリオ暦での日付とは徐々にずれていく。
もともと mawsim は毎年同じ時期に行われる「季節」や季節ごとの「行事」のことを意味していたが、大航海時代にアラビア語からポルトガル語 monção やオランダ語 moesson に借用され、アラビア海で時期によって向きが変わる風のことを指す語となり、今では 英語 monsoon は南アジアの雨期という意味で使われることが多い。そして、高湿度な季節風を利用したユニークな発酵プロセスでできるコーヒーを指す語としても使われる。
ヒンディー語で アラビア語からの借用語として मौसम (mausam) というと「季節」や今日の「天気」を指す。もちろん、英語からの借用語として मानसून (mānsūn) とも言う。季節風によって生じる雨期という意味でのモンスーンのことは、古くはヒンドゥー暦の月名から सावन (sāvan) という。サンスクリットでは श्रावण (śrāvaṇa)。
ボリウッド映画で雨の中踊り狂うシーンも良くあるが、古典的に सावन (sāvan) の月は、乾季で灼熱に乾燥した大地に潤いの雨が降り、旅に出ていた人が帰郷し留まる時期なので、恋の時期。 सावन (sāvan) にまつわる歌や、雨の中で(時に妖艶に)踊るシーンもボリウッド映画のスパイスには欠かせない。
女の子の名前で मौसमी (mausmī) と言うのも良い名前だ。日本語で言うなら 「真季」みたいな意味合いだろうか。発音しても「ますみ」に近く、日本語の名前っぽく聞こえる。
そういえば「天(てん)」と言うと天道様(おてんとさま)を連想させるが、「天(あま・あめ)」と言うと「雨」も連想させ得る。天気とは何かはどんな天候を期待するかで変わってしまうのだろうか。