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#136.【語源クイズ】sl- で始まる語彙

問.次の単語のうち、古英語まで遡ることができる英語本来語のものはどれでしょうか。

① sled そり・犬ぞり
② slot スロット・細穴
③ sloth ナマケモノ
④ slash スラッシュ(/)





解説

① の sled は「そり」です。中英語の sledde は中期オランダ語 sledde からの借用です。ゲルマン祖語の *slidô は slīdaną+-ô に分解できますが、現代英語的に置き換えると slide+er つまり “slider” です。

② の slot はコイン投入口のような「細長い小さな穴」を指す言葉です。特に、そこにピッタリくるものを受け入れるための穴にはめこむ比喩から、時間割のタイムスロットやギャンブルのスロットマシンを指す語になりました。古フランス語 esclot から来ましたがその先ははっきりしていません。動物の「足跡」を指す slot と同じ語源なのであれば、古ノルド語の slóð (“track”) から来たと見られ「滑り込ませてはめる」の意味ともつながり、 slide や sled と同語源とも考える説もあるようです。

③ の sloth は「ナマケモノ」です。古英語の slǣwþ から来ている英語本来語です。現代英語風に言えば「slow+th」。 -th は、現代ではこの方法で新たな語彙は形成されていませんが、health や length のように形容詞を名詞にする接尾辞です。よって、sloth の語義はシェイクスピアでは「怠惰」、チョーサーでは「緩慢」という意味で出ていますが、動物のナマケモノを指すようになるのは 1613年以降です。

④ の slash は「サっと切りつける」や「斜線(/)」を意味します。現代の電子的な通信では欠かせない「スラッシュ」ですが、出所が良く分かっていない不思議な単語です。中英語には用例は見られないようで、英語語源辞典では初出が 1548年となっていますが、oed.comによると1382年のウィクリフ聖書の1 Kings 5:18に初出となっています。ウィクリフ聖書原文を確かめてみると、本文ではなく ouerscorchide (roughly hewed 木材を"伐採する") の脚注として slascht (slashed) という形で出ているようです。slash はおそらくフランス語の esclachier ("break") から来ていると思われます。他にも slat (木や金属の薄く細長い一片) と関連があるとすれば、古フランス語の esclat やその前のゲルマン系のフランク語 *slaitijan とかかわりがあるという見方もできます。あるいはフランク語でヒビが入る(crack)時の擬音語 *klakkjan と関連があるという説もあるようです。いずれにしてもフランス語が関わるようです。

https://quod.lib.umich.edu/c/cme/AFZ9170.0001.001/874:15.5

今回、冬のスポーツに関する用語を探そうと思い sled から情報収集を始めたのですが、思いのほかイギリスで盛んな伝統的なウィンタースポーツが出て来ませんでした。ウィンタースポーツをしないことはないようですが、大西洋の暖流のおかげでイングランドには豪雪がないようで (アングロ・サクソン人やヴァイキングたちが定住したいと思ったのも分かる気がします)、高地のスコットランドには多少スキー場があるものの、スキーはみな海外(ヨーロッパやカナダ)に出かけることが多いようです。なので、hockeyと言えばアイスホッケー、sled と言えば犬ぞり...と、カナダでは意味が限定される語彙もあったり、と興味はつきないのですが、まとまりがなくなってしまったので、最近気になる古英語からの本来語と絡めて sled と似た言葉を並べたクイズにしてみました。

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