見出し画像

#107.【語源クイズ】動物名・ネコ科編

子どもが遠足で動物園に行って来た。ライオン、ピューマ、トラは なんとなく区別できそうだが、チーター、ヒョウ、ジャガーはいつも混乱する。

と、ここで語源クイズ。

問.次の英単語のうち、インド植民地時代にヒンディー語から英語に借用されたものを1つ選んでください。

① jaguar
② tiger
③ cheetah
④ puma






区別の仕方はというと、まず、模様があるなし。模様がないものは、ライオンとピューマ。雄にたてがみがあるのがライオン、より小柄でアメリカ大陸にいるのがピューマ。模様が斑点ではなく縦縞なのがトラ。模様が斑点のもののうち、斑点が黒だけで今はアフリカにしかいないのがチーター。斑点が梅花のようになっているものが最後に残るが、中に点がなくアジア・アフリカにいるのがヒョウ(黒ヒョウは全体が真っ黒で斑点がみえない)、中に点がありアメリカ大陸にいるのがジャガーだ。生息地も語源と関わりがある。では語源を解説していこう。

jaguar
英語にはポルトガル語を経由して入った(初出は1604年)が、ブラジルの先住民族のトゥピ語îagûara から来ている。彼らにとって新種の生物であるイヌをヨーロッパ人が持ち込むと、イヌも îagûara と呼ぶようになった。その他にも肉食の動物をすべて含めて  îagûara と呼ぶので、もとのジャガーを指す場合には -eté (真の) をつけて îagûareté と呼ぶ。(ラテン語でクジャクをpavo と言うが、大型の鳥はpavoと言うようになりシチメンチョウのことを指すようになったので、スペイン語ではクジャクをpavo realと言うのに似ている。日本語でも「マ(真)」がつく動物名があるのも同じか)

ジャガーは、チーターやヒョウと区別がつきにくいが、チーターとヒョウはアジア・アフリカに、ジャガーはアメリカ大陸にという違いがある。

tiger
古英語からある単語。中英語の tygre は、古英語の tigras (複数) と アングロ=ノルマン語(ノルマンディー地方で話されていた北フランスの言語のひとつ)の tigre から来ているが、いずれもラテン語の tigris、さらに遡って古代ギリシャ語の τίγρις (tígris) から来ている。さらに遡ると古代ペルシア語tiγra (鋭い・急な) という語から。一説にはチグリス川の Tigris (上流は急流) と同語源。アヴェスタ語の tiγri (矢)、ペルシャ語やヒンディー語の तीर/تیر (tīr 矢)と同語源。究極的には印欧語根 *(s)teyg-/*(s)teig- から。同語源の英単語は stick、ヒンディー語で तेज (teja 鋭い・素早い) など。

cheetah
初出は1774年。ヒンディー語 चीता (cītā) からの借用語。ということでこれが正解。知っている人は多いかもしれない。चीता (cītā) はサンスクリットの चित्रकाय (citrakāya) からで、चित्र (citra 絵・模様) +काय (kāya 体) で「模様のあるもの」の意味。चित्र (citra 絵) は चेहरा (cehrā 顔) とも同語源だが、*keyt- (輝く, 明るい, 晴れやか) という印欧語根から来ていて、表情が明るい(cheerful)という意味のドイツ語 heiter や 古英語 hador とつながっているらしい。(サテム語で /k/ は /tʃ/ に、グリムの法則で /k/ は /h/ に)

チーターはアフリカにしかいないイメージがあるかもしれないが、古くはサハラ砂漠中央部と熱帯雨林域を除くアフリカ大陸全域、パレスチナからアラビア半島・インド・タジキスタンにかけて分布していた。ほかの大型ネコ科動物に比べておとなしいため、マハラジャたちは狩猟犬の代わりにチーターを狩りに使っていたほどだった。しかし現在、アジアではイラン中部を除いて絶滅している。狩猟の対象になったことも原因の一つだが、何よりも人口が増えたことが最大の原因とみられる。農村で人との接触が増えると害獣として駆除されてしまうからだ。インドでは、アフリカから持ち込んで再び森に放とうという計画が進められている。なお、ヒンディー語 चीता (cītā) はチーターだけでなく、トラやヒョウも含め、斑点・縞模様があるネコ科の動物を指していた。

puma
初出は1771年。スペイン語からの借用語で、もとはケチュア語ピューマそのものを指す語だ。ケチュア語と言えば、ペルーなどアンデス山脈の西側の言語で、アルパカ、インカ、コンドル、ケーナもケチュア語から。ピューマのもう一つの名称クーガー(cougar) は、前述のブラジル先住民族のトゥピ語から来ている。トゥピ語 suasuarana → ブラジル・ポルトガル語 suçuarana → ポルトガル語 cuguardo → フランス語 couguar → 英語 cougar。かなり端折られたが  jaguar, tiger と韻を踏んだ形に落ち着いたのだろうか。suasuarana は「suasú(鹿)のような生き物」という意味らしい。

語源からも ジャガーとピューマ(クーガー)はアメリカ大陸ということが分かる。

なお、分類学的にはこのように整理されている。

<ヒョウ亜科>
 ヒョウ属
 ・ライオン (lion)
 ・ジャガー (jaguar)
 ・ヒョウ (leopard)
 ・トラ (tiger)
<ネコ亜科>
 チーター属
 ・チーター(cheetah)
 ピューマ属
 ・ピューマ(puma)

いいなと思ったら応援しよう!