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#62. 脊椎とヤマアラシは同語源 *spey- [spike/spine/porcupine]

庭いじりをしていると特に掃除しているときにどうしても棘や硬くてツンツンしたものでけがをする。手にささった「トゲ」はなんと言うのだろうか。

ヒンディー語の कांटा (kāṇṭā) という語は、植物の棘はもちろん、魚の小骨や時計の針まで日本語では「針」と言いそうなもの、果てはフォークまで含む広い範囲を指す。この語とつながっている英単語は何かあるだろうか。

कांटा (kāṇṭā)
← कण्टक (kaṇṭaka) Skt

起源は不明のようだが、もしかすると 古代ギリシャ語の κεντέω (kentéō) "to prick, sting" と関係があるかもしれない。となると、κέντρον (kéntron) = centre や hunt といった語と同語源ということになる。κεντέω, κέντρον(centre), hunt のいずれも 印欧語根 *ḱent- から来ていると思われる。プツっとピンポイントで刺すイメージに कण्टक (kaṇṭaka) も合うように思える。ただそうだとすると、ケントゥム語・サテム語の区分を考えたときに、硬口蓋破裂音 ḱ は、サテム語のインド語派では 破擦音 (tʃ - ts) や摩擦音 (ʃ - s) になるはずなので、*ḱent- が そのまま  kaṇṭa- と残っているのも不自然だ。

ヒンディー語の कांटा (kāṇṭā) は非常に指す範囲が広いのと対照的に、英語では棘や針がどういう成り立ちなのかで単語が分かれているようだ。 thorn, spine, pricke, splinter と幾つか言い方があるようだ。

植物学的に言うと、以下のような区別があるらしい:
 thorn は茎や枝が変形してできていて、比較的硬くて強い。動物でいうと、骨が元になって角や突起ができる感じか?
 spine は葉などが変形してできていて、比較的柔らかく簡単に取れ落ちる。動物でいうと、爪や硬い皮膚が元になって角や針ができる感じか?
 prickle は樹皮などが変形してできていて、比較的粗くて不規則な並び。動物でいうと、毛が元になって角ができる感じか?これら3語は植物についている突起という意味でのトゲ。一方、
 splinter は植物とは関係なく、木・竹などの細片のことのようだ。  

植物学的には細かい定義があるかもしれないが、日常会話ではその境目は結構曖昧なようだ。とは言え違う語ということは、その語が持っている特有の雰囲気が何かあるはずだ。どうニュアンスの違いがあるのだろう。語源から探ってみる。

thorn
← thorn, þorn (ME)
← þorn (OE)
← *þorn (Proto-West Germanic)
← *þurnaz (Proto-Germanic)
← *tr̥nós (PIE)
← *(s)ter- (PIE√) “stiff”

thorn は最も一般的にトゲを指す語で、古英語アルファベット Þ, þ の名前にもなっているほどよく使うゲルマン系の語だ。印欧祖語の段階でトゲのある植物そのものを指していたようなので、トゲという部分だけでなく、トゲのある植物そのもの―いばら―も指す。日本語でも「バラ」「イバラ」「ハリ」と言った語が関連しあっているのも面白い。

spine
← spyne (ME)
← espine (Old French)
← spīna (Latin)
← *speinā (Proto-Italic)
← *spey- (PIE) “sharp point”

spineはイタリック語。麦の穂先を指す星の名前spicaと同語源。ゲルマン語の spikeと同語源。脊椎のspineと同じ。spineは背骨と覚えていたが、背骨のことをとげとげのある長い骨という捉え方はしたことがなかった。そういえば魚の骨などを見れば、メインの太くて長い骨から脇に飛び出ている小さい骨はトゲトゲとも見えなくはない...。ハリセンボンを Long-spine porcupinefish というようだ。(単にporcupinefishということもあるようだが、違いがわからない)porcupine はラテン語の porcus (“pig”) + spinus (“spine”) なので、spine が2回入っている。Long-spine porcupinefish は ナガハリハリネズミウオみたいなことか?ただし porcupine は ハリネズミではなくヤマアラシだ。ラテン語経由だけあって、医学用語や動物名に spine に関係する語はたくさんあるようだし、鑑賞対象に言うような気がする。トゲを鑑賞対象として見るサボテンの棘(サボテンの場合、棘は実は葉っぱ)を spine という例がそうだ。

prickle
語源不明。勝手な解釈だが、-cle (~なもの) という接尾辞についた pri- は「プツッ・チクッ」という、鋭利な針先で突いたときのオノマトペのような気がしてならない。prickle は プチンコ みたいな感じなのだろうか。

splinter [splint +‎ -er]
← splint, splent, splente (ME)
← splinte, splente (Middle Low German)
← *splintǭ, *splintō (Proto-Germanic) “piece of wood”
← *splint-, *splind-, *splītaną (Proto-Germanic) “to split”
← *(s)pley- (PIE) “to split”

splitと同語源で、「破片」の意味。thorn, spine, prickleは植物から出ている突起物を指す一方、出所・正体がわからない「トゲ」が刺さっている場合は、何かの破片が刺さったということで splinter と言っていいかもしれない。

まとめ
thorn は ゲルマン系の語で、トゲあるいはトゲのある植物全体を指す一般的な言葉。感情的なニュアンス(いばらのようにいやな物・状況)が含まれる。spine はラテン語由来で、動植物名や学術的に部分・パーツとして着目した言葉に多い。prickle は オノマトペ感があるので、刺さった痛み(チクチク感)に着目した語。thorn も spine も、本体から飛び出した部分だが、spliter は 本体から分離した破片

ガーデニングをするときには怪我をしないようちゃんと手袋をつけよう。

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