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#80. なぜ「銀行」と「土手」が同じ「bank」なのか? *bʰeg- [bank/भाँजना]

すでに多くの方が手がけられているが、面白い語なので調べてみたかった。

銀行の bank はイタリック語経由だが、土手の bank は古英語にもある本来語だ。いや、そもそもイタリア語にゲルマン語から入って来たというところも興味深い。Wiktionaryによると、

bank (銀行)
← banke (Middle English)
← banque (Middle French)
← banca (Italian)
← bank (Lombardic)
← *banki (Proto-West Germanic)

bank (土手)
← bank (Middle English)
← hōbanca (Old English “couch”),
  banc (Old English “bank, embankment”)
← *banki (Proto-West Germanic)

*banki (Proto-West Germanic)
← *bankiz (Proto-Germanic  “bench, counter”)
← *bʰeg- (Proto-Indo-European “to turn, curve, bend, bow”)

この同じ印欧語根 *bʰeg- には break という意味がある。しかし、粉々にせん断破壊するという意味ではなく、曲げ折るという意味での「壊す」ことのようだ。同じように *bʰeg- に繋がるヒンディー語 भंग (bhaṅg), भाँजना (bhāñjnā) も粉々に砕くのではなく曲げて壊す意味だ。

日本では、川の長さが短く上流から下流への 勾配が急であるところに、稲作社会を維持する必要があったため、治水技術が発達した。そんな日本では土手や堤というとしっかりした堤防(人の手が加わった川岸)をイメージするが、ゲルマン祖語の時代にそんな堤防があったのか疑問である。川が形成する地形も違うと思われる。川の曲がり角のことをa bend in a riverと言うが、平地で流れが緩やかでぐねぐねと蛇行しているところでは特に、河川がねじ曲がった箇所は周りが削り取られ、細長い台座のような塚が形成されるところがある。(例:Saar-Hunsrück Nature Park)

そんな自然の河川が「折れ曲がった」箇所を指していた言葉 *bʰeg-が、盛り上がっている「小丘・土手・境界線」を指すようになり、「細長い形」に形成されたところから、形が似ている「長椅子・ピアノの鍵盤・勘定台」そして、勘定台から「両替商・銀行」を指す意味を含むようになって行ったという仮説はどうだろう。ゲルマン人とローマ人の境界線は西はライン川でこのような地形が多かったのでゲルマン語由来なのかもしれない。

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